Outline of Annual Research Achievements |
破壊現象の記述に現れる「一方向性を有する相転移モデル」に焦点を当て, そこで用いる「単調成長を拘束条件に伴う発展方程式」について研究を行った. 破壊現象を記述する相転移モデルでは, 破壊の度合いを表す相変数が単調に成長するという特有の拘束条件を伴う. ここでは Allen-Cahn 方程式に拘束条件を課した問題を考え, 以下の成果を得た. (1) 解の部分的平滑化効果: 拘束条件を課した場合, 拡散方程式や Allen-Cahn 方程式ではよく知られた解の平滑化効果は, 完全な形では実現しない. ここではある関数空間上の非有界・非線形な集合を導入し, 解の平滑化効果が「部分的に」起こることを示した. また, その過程でエネルギー不等式を導出し, エネルギー消散も「部分的に」起こることを示した. 証明には L2 空間上の発展方程式への帰着と吉田近似を用いた近似, そして新たに開発した近似解に対する「部分的」エネルギー消散評価が重要な役割を果たす. (2) 大域的アトラクター: 拘束条件から通常のルベーグ空間, ソボレフ空間では大域的アトラクターが存在しないことを証明した. 一方 (1) で構築した集合を相集合とするような力学系を構築し, その上で成り立つエネルギー消散評価を用いて, 大域的アトラクターを構成した. (3) 障害物問題への書き換えと応用: 単調性の拘束条件が解の時間発展に与える影響をより詳しく見るために, 拘束条件付き Allen-Cahn 方程式が初期値を下からの障害物とするような障害物問題に書き換えられることを証明した. また, これを用いて解の選出原理, 比較原理, 力学系の定式化を行ったほか, 解の長時間挙動 (解の収束) を証明した. 証明では (1) で導入した近似問題に対して, 測度論に基づく議論によって問題の書き換えを証明し, その後で極限をとった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
この研究課題は当初計画にはなかったが, ここまでの計画遂行に伴い派生したものである. この派生課題の考察を通して, 予定されていた課題 (特に一方向性を課された非同次項付きの拡散方程式) についても展望を開く結果となった. 平滑化効果が「部分的に」起こることや障害物問題としての書き換えは今後の研究計画の遂行に向けて, 足がかりとなるであろう.
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Strategy for Future Research Activity |
一方向性を拘束条件に持つ発展方程式に対する基本的なアプローチは確立しつつある. 今後はそれをさまざまなタイプの方程式に適用することによって, 拘束条件と方程式が本来持ち合わせていた性質の相互作用について考察する. また基本的性質 (適切性や正則性など) が明らかになったことにより, より詳細な解の性質や挙動について分析する基礎ができあがったことになる. 例えば (i) Allen-Cahn 方程式の研究ではよく知られた進行波解に対応するものの有無, また (ii) Barenblatt-Prostokishin が提案した damage accumulation モデルに由来する非線形拡散型の問題, さらには (iii) 亀裂破壊モデルのフルモデル自体に対しても研究を行いたい. (i) については Technical University of Munich の C. Kuehn 氏と, (ii) については University of Vienna の S. Melchionna 氏と予備的な議論を始めている.
材料の微細構造を考慮した破壊現象モデルとして, 一方向性を拘束条件に持つ勾配系に対する均質化問題が考えられる. 特に微細構造に周期性を仮定する周期的均質化問題と確率的なノイズを入れる確率的均質化問題の解析が派生課題として考えられる.特に確率的均質化問題ではここで考えるような強い非線形構造を伴う方程式に対して有効な手段が知られていない. そこで本研究課題で開発した方程式の (障害物問題としての) 書き換えを用いることで, 問題解決の糸口を探る. これに関しては Technical University of Dresden の S. Neukamm 氏と M. Varga 氏と共に 2018 年 8 月に予備的な議論・調査を行い, 幾つかの発見をしている.
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