2017 Fiscal Year Annual Research Report
トポロジカル絶縁体の超薄膜化による次元交差効果とスピン依存伝導
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16H03999
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
長田 俊人 東京大学, 物性研究所, 准教授 (00192526)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 物性実験 / 超薄膜 / トポロジー / 表面・界面物性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、3次元の強いトポロジカル絶縁体であるBi2Se3の層状結晶を薄層化したときに、3次元から2次元へのトポロジカル相の次元交差がどのように起こるかを明らかにするものである。グローブボックス環境下でBi2Se3の超薄膜FET素子の試料作製が可能な環境が整備されたところで初年度が終わったので、平成29年度は系統的な超薄膜試料作製と低温伝導実験を開始した。まず研究費を用いて微小試料の電極付けに用いるエポキシダイボンダーの導入を行った。次に、強いトポロジカル絶縁体Bi2Se3の結晶を機械的劈開法で薄片化してFET素子に加工した。その際、可能な限りプロセスは不活性ガス内で行い、試料の測定部分はh-BN薄膜、イオン液体、電子線レジストなどで覆い大気から遮断することが重要であることを改めて確認した。また用いた市販のBi2Se3結晶はSe欠損のためにn型に強くドープされているため、これを中性化するようにイオン液体DEME-TFSIをゲート媒質とする電気2重層トランジスタ構造にして正孔注入を試みた。しかし正孔注入量が不十分で、Fermi準位をギャップ内に移動させるには至らなかった。このn型ドープされたBi2Se3薄膜について磁気抵抗測定を行ったところ、量子振動(Shubnikov-de Haas(SdH)振動)が観測された。磁場方位依存性や位相解析から、観測されたSdH振動はヘリカル表面状態に由来するものではなく、ドープされたバルク電子の回転楕円体型Fermi面に由来するものであると考えらる。このSdH振動の解析により、バルクの電子構造に関する知見が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の目的を達成する上で2つの技術的課題が明らかになった。(1)最初の問題は、粘着テープを用いた機械的劈開法によるBi2Se3試料の薄層化において、膜厚13nm(13QL=13原子層)を最小の限界として、より少数層の試料の作製が困難であることである。トポロジカル相の次元交差は上面と下面のヘリカル表面状態がトンネル結合する5nm(5原子層)厚程度で起こると考えられるので、さらなる薄層化が必要である。(2)第2の問題は、母体結晶の残留電子濃度が大きく、イオン液体を用いた電気2重層トランジスタではFermi準位をギャップ内に移動させられず、試料の絶縁化が困難であるということである。Fermi準位が伝導帯にあると、表面伝導とバルク伝導が共存するため、表面状態を用いたトポロジカル相の同定が困難になる。これらの問題のため、系統的な試料の作製と評価に遅れが生じた。
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Strategy for Future Research Activity |
研究目的を達成するためには、上記(1)の試料の更なる薄層化は必須である。文献によれば粘着テープにより単原子層(1QL)を得た例もあるので、劈開の方法を最適化すれば、問題を解決する余地はあると思われる。(2)の問題は、薄膜の厚さがより薄くなればキャリアの体積密度が増すので解決されると期待される。解決されない場合は、表面伝導とバルク伝導が共存した状態でトポロジカル相の同定を行う必要があるので、バルク伝導におけるスピンHall効果の有無によりトポロジカルか否かを判定する非局所伝導の実験に切り替える。
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