2017 Fiscal Year Annual Research Report
第二次高調波光顕微鏡を用いた有機強誘電体の分極ドメインのサブピコ秒制御
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16H04000
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
沖本 洋一 東京工業大学, 理学院, 准教授 (50356705)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 強誘電体 / 非線形光学 / 光誘起相転移 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、近年連携研究者の堀内らによって発見、開発されてきたプロトン移動型新規強誘電体の持つ強誘電特性を、フェムト秒レーザパルスの照射によって実空間制御することが目的である。これまでの本科研費の支援の下で行われた二年間の研究では、プロトン化したジメチルビピリジン分子(H66dmbp)やジピラジニルピラジン分子(Hdppz)を陽イオン、クロラニル酸分子(Hca)分子を陰イオンとする強誘電体共結晶試料に注目し、フェムト秒レーザパルス励起による第二次高調波発生(SHG)強度変化を調べることにより系の「強誘電性」が光照射でどう変わるかを詳細に調べた。 [Hdppz][Hca]結晶においては、530nmの可視光レーザパルスを用いてHca分子のπ-π*遷移を励起することにより、結晶から出るSHG強度が20%以上減少することを見出した。また、1MV/cmに及ぶテラヘルツ電場を照射した後のSHG強度測定にも成功し、テラヘルツ電場波形に追随するSHG変化(最大15%の増強)が観測された。 [H66dmbp][Hca]結晶においては、可視光レーザパルスの照射により、結晶表面上でSHG光強度が減少する領域と逆に増大する領域が存在することを発見した。さらにこの系に外部から電圧をかけることにより、光照射で起きたSHGの増大が逆に減少に転ずることを明らかにした。この光によるSHG変化の符号が電界によって反転する結果は、試料表面上に存在する強誘電ドメインの持つ分極の方向が光照射で反転し、ドメイン状態を変化させたために生じたことを直接的に示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、近年開発が進んでいる水素結合による超分子構造を起源とする有機強誘電体結晶を対象とし、フェムト秒光パルスの照射によって、系の「強誘電性」を高速に実空間で光制御することを目的としている。具体的には、プロトン化したジメチルビピリジン分子(H66dmbp)を陽イオン、脱プロトン化したクロラニル酸分子(Hca)を陰イオンとする一価のプロトン移動型共結晶([H66dmbp][Hca]結晶)を中心に研究を行った。この系はTcが380K の強誘電体で、室温で強誘電性を示すとともに、強誘電体に特有のマクロな分極ドメイン構造を有すること、および波長530nmの光を照射することによりHca分子中のπ電子を励起できることが知られている。本研究では、フェムト秒レーザ光の照射によってこのπ電子を励起することにより、系の第二次高調波(SHG)光強度がどう変化するかを調べた。SHG効果は二次の非線形光学効果であり、系の反転対称性の破れを敏感に反映するため、系の強誘電性変化を調べるのに有効な測定法である。本研究年度は[H66dmbp][Hca]結晶において、可視光パルス照射後のSHG変化の測定を、試料表面上でマッピングしながら行った。その結果、試料表面上にSHGが光照射によって増大する領域と減少する領域があることを(およそ100μmの空間分解能で)明らかにすることに成功した。それに加えて、光照射後SHGが増大する領域において、外部から電圧(およそ1KV/cm程度)を印加した後に、再び光励起後のSHG変化測定を行ったところ、電圧印加前に光照射で増大していたSHG変化量は、電圧印加によって減少へと転じることが明らかになった。この結果は、外部電圧印加が結晶中に存在する分極ドメインの方向を揃えたために起きたことを端的に示すと同時に、π電子の励起でおきるフェムト秒スケールでのSHG変化の起源は、光照射が系の分極ドメインの変化を引き起こすことによるものであることを直接に示すものである。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究遂行に当たって現在考えているテーマは以下の3点である。 1.SHG強度変化のマッピング測定の空間分解能は、現在100ミクロン程度であり実際にそれでドメインは見えているが、今年度は測定に用いたレーザパルスの干渉効果を使うことにより空間分解能をより上げることを試みる。 2.これまでに研究を行ってきた二種の試料([H66dmbp][Hca]結晶と[Hdpz][Hca]結晶)以外の強誘電共結晶に対して光照射にともなう高速SHG変化を調べる。具体的には、Hca分子の塩素の一つを臭素に置換したブロマニル酸分子(Hba)をカウンターとする共結晶試料や、複数のプロトンを引き込めるドナーを含む[H2-TPPz]Hca]結晶である。前者は、臭素置換によって分子サイズを実行的に増大させることによりプロトン移動が起こりにくくなり、強誘電転移温度が増大することが知られている。また後者は、プロトンアクセプターの異なるサイトに二つのプロトンが局在する新型強誘電体であり、それらの効果が光制御にどう影響を与えるかを徹底的に調べる。 3.フェムト秒中赤外パルス(波長がおよそ7.5ミクロン)を用いてクロラニル酸分子の分子振動を励起することにより、系のSHG変化がどう変化するかを調べ、これまでに行ってきた可視光パルスを用いた実験と比較する。現在、東京大学物性研究所の板谷研究室と共同で、中赤外パルスで励起した後のSHG強度変化測定システムの立ち上げを行っており、分子振動を直接揺さぶった時に強誘電状態がどう変化するかを調べる。得られた結果は分子内励起した場合と比較、検討し、有機強誘電体の光制御の指導原理を更に明らかにしていく。
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Research Products
(14 results)