2017 Fiscal Year Annual Research Report
強磁場自由電子レーザーX線回折・分光法による磁気・電荷・格子相関の解明
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16H04005
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
野尻 浩之 東北大学, 金属材料研究所, 教授 (80189399)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
桑原 慶太郎 茨城大学, 理工学研究科, 教授 (90315747)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | X線自由電子レーザー / 強磁場 / 電荷密度波 / 超伝導 / スピンクロスオーバー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、新世代のX 線光源であるX 線自由電子レーザー:XFEL と物質を精密に制御出来る強力な外場であるパルス強磁場を組み合わせ、30-40T(テスラ)の超強磁場下において、高精度X線回折法とX 線発光分光をはじめとする強磁場下高次X 線分光法を実現し、強相関物質の多自由度相関を明らかにすることである。本年度は、銅酸化物高温超伝導体の磁場誘起電荷密度波:CDW の研究を昨年度に引き続き実施し、ドーピングによる量子相転移と磁場誘起CDWの関係を明らかにした。その結果は、現在論文として投稿中である。また、SACLAにおいて、開発した装置の実証実験を行い、マルチフェロイック物質ならびに磁場誘起スピンクロスオーバー転移:HISCT におけるシングルショットX線回折実験に成功した。放射光では困難な粉末試料測定がシングルショットで行えたことは、強磁場下の自由電子レーザーの利用の優位性を明らかにした実験として重要である。この実験により、SACLAにおける強磁場X線回折手法が確立した。これらの成果は、物理学会で共同研究者が成果として発表するとともに、国際結晶学会における招待講演ならびにヨーロッパXFELシンポジウムにおける基調講演として発表した。後者の講演により、本研究課題が、ヨーロッパにおける同様の課題に対して、優位性があり先行していることを内外に示す事が出来た。また、関連研究として、強磁場X線回折実験による多極子系の構造変化を研究するために、予備実験として強磁場中性子回折も実施し、その結果を論文に取り纏めた。装置開発については、強磁場化と低温化について目処を付けることが出来たため、その内容を論文として取り纏めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
この2年間で、これまで、LCLSでしか実施出来なかった実験をSACLAでも実施出来るようになったことは、本課題の目的に対して、順調に進捗していることを示している。その中で、新しい回折系の立ち上げに成功し、その性能をSACLAにおける初めての実験で実証出来たことは特に重要である。具体的な物質における応用については 、高温超伝導体のCDW転移について研究が順調に進み、その組成、温度、磁場に関わる電子相図の全貌を纏めた論文を投稿することが出来たことは重要な進捗である。とりわけ、量子相転移付近における振る舞いを明らかに出来た事、上部臨界磁場以上の強磁場下でX線回折実験が実施出来たことは大きな進捗である。これにより、本分野での我々の優位性がさらに高まったことは、本課題の大きな成果である。錯体の回折においては、試料ダメージが懸念されたが、ビームの制御によって、再現性あるデータの取得が可能であることが示された。他の課題についても、2018年度前期に行われる本実験に向けて、着実に準備が進んでおり、実施状況には問題はない。その中で、発生磁場の向上に向けた試作を繰り返し、抜本的な磁場の向上に目処がついたことは重要である。現在立ち上げ中のヨーロッパ自由電子レーザーにおける強磁場実験は、本研究課題の競争相手となるが、現時点で2年程度先行することが出来ており、その点でも順調である。 以上のように、本課題は、最終年度に向けて、順調に進んでいることから、進捗状況は予定通りであると判定出来る。
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Strategy for Future Research Activity |
H30年度は、最終年度であり、これまでの研究を完成させ、成果として取り纏める。2018年度の前期は、LCLSにおける発光分光ならびに磁場誘起スピンクロスオーバー転移の実験が予定されており、現在その準備を進めているところであるが、様々な実験上の課題はほぼ解決されており、計画通りの実験の実施が期待出来る。最終年度後半は、低温におけるX線回折実験を行う予定であるが、それに向けた準備も着実に進んでおり、温度および磁場の条件については問題ない。微弱な変化を捉えるためには、高品質の試料が必要である、それらを選別するための、予備実験をH29年度から継続して実施しており、本実験にむけて、さらに推進する。SACLAの実験については、より微少な変化を測定するために、高分解能の後方散乱を実施することが必用になっており、検出器の配置やチェンバーの窓の改良を進めている。具体的には、検出器をより面積の広いものに変更して、より広範囲のデータを一度に取る事、前方と後方散乱が同時に測定出来る光学窓の交換を実施する。 また、最終年度にあたり、これまでの成果を論文として取り纏める必用があるが、スピンクロスオーバーに関する論文、回折系に関する論文とCDWに関する論文の3つの取り纏めを予定している。これらを通して、本研究課題の目的の遂行を確実に実施する。
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Research Products
(9 results)