2016 Fiscal Year Annual Research Report
新しい偏極中性子散乱手法を用いた高次スピン及び軌道自由度の検出
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16H04007
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
南部 雄亮 東北大学, 金属材料研究所, 准教授 (60579803)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 物性実験 / 中性子散乱 / 鉄系超伝導 / スピントロニクス |
Outline of Annual Research Achievements |
鉄系梯子型物質は鉄系超伝導の一次元版類似化合物として理解され、圧力印加によって超伝導が発現することを世界で初めて報告した。今年度は鉄系梯子型物質BaFe2Se3について磁気励起測定を行った。複数軸立てした単結晶試料を用いて50 meVまでの磁気励起を観測し、超交換相互作用の見積もりを行った。また、この物質は低次元性構造を反映して、磁性も単純な三次元磁気秩序では理解できないことが知られている。中性子、ミュオン実験を組み合わせることで8桁以上に渡る磁気揺動の温度変化を調べた。その結果、それぞれの実験手法では時間スケールが異なることを反映して磁気転移温度が異なり、磁気転移以下の幅広い温度域に渡って動的な磁性成分が残っていることを観測した。 電子の持つ電荷に加え、スピン自由度に着目したスピントロニクスの研究において、スピン流が大きな注目を集めている。スピントロニクスを応用に繋げるため、基盤物質Y3Fe5O12の磁気励起を正しく理解する必要がある。この物質はフェリ磁性体としてよく知られているが、その磁気励起を観測したものは1970年代の報告に限られている。そこで我々は、2015年度にチョッパー型分光器を使用し広範囲の(Q,ω)空間での磁気励起を観測し、今年度は低エネルギー磁気励起について冷中性子三軸分光器を用いて詳細に決定した。その結果、これまでの報告とは異なり、磁気ブラッグ点から対称性の高い逆格子空間方向について強磁性的な相関が発達していることがわかった。また、SSEの性能を決める磁気ヘリシティについて、偏極中性子非弾性散乱を用いたカイラル項測定から決定した。その結果、磁気励起の音響・光学モードは理論予想に整合して反対のヘリシティを持つが、音響モード内においてもヘリシティの反転が見られた。これは単純なスピン波計算では再現できず、幾何学的な欠陥など新奇機構が存在している可能性がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は中性子を用いた高次スピン自由度、軌道自由度の検出を柱としている。これらの新奇自由度観測のため、中性子実験に備えた試料合成、評価、バルク物性測定は予定通り行うことができている。加えて、スピントロニクス基盤物質に偏極中性子散乱を適用し、予想に反した結果が得られるなど、当初予定以外の成果も得ている。
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Strategy for Future Research Activity |
鉄系梯子型物質では構造の一次元性を反映して、磁気相への転移が緩やかである。二次元系との差異を明らかにするべく、スピンの特徴的な揺らぎ時間を定量的に明らかにする。チョッパー分光器、中性子スピンエコー装置を組み合わせて、エネルギー分解能を変えていくことでより遅いダイナミクスを検出する。また、ミュオンをも組み合わせることで、磁気揺動の温度変化を8桁に渡って解明する。 三角格子反強磁性体について、強磁場実験を進める。高磁場下では磁気スキルミオンの存在が理論的に予言されており、その解明を目指す。また、この物質では磁気四重極子相関の存在が考えられているため、中性子散乱過程においてこの相関に対応するBorn近似の第二次項の検出を目指す。 スピントロニクス基盤物質Y3Fe5O12の磁場中中性子非弾性散乱実験を行う。磁場中ではスピンゼーベック信号がmagnon-polaron混成によって増大することが報告されているが、この領域でのスピン波励起の変化を測定する。
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Research Products
(15 results)