2017 Fiscal Year Annual Research Report
超高効率レーザーARPESによる分子性導体の電子物性の解明
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16H04015
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
木須 孝幸 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (20391930)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 光電子分光 / 分子性導体 / バンド構造 / 超伝導 |
Outline of Annual Research Achievements |
超高分解能レーザー光電子分光の光源である狭帯域レーザーの高繰り返し化により、従来の数倍以上の高効率測定が可能となったことを踏まえ、これまで研究を行ってきたk-(BEDT-TTF)2Cu(NCS)2と比べ、よりMott転移との相境界に近く測定が困難であるk-(BEDT-TTF)2Cu[N(CN)2]Brの研究を遂行した。
k-(BEDT-TTF)2Cu[N(CN)2]Brは本物質の超伝導の起源と考えられるMott転移近傍により近い物質であり、本物質の超伝導ギャップと角度分解光電子スペクトルの直接観測に成功すれば、分子性導体における超伝導発現機構の解明により直接的なエビデンスを得ることが可能である。 本物質はMott転移に近いためフェルミ準位近傍の電子状態密度がk-(BEDT-TTF)2Cu(NCS)2と比べて小さく、また正常な試料表面を得るための劈開の成功率もk-(BEDT-TTF)2Cu(NCS)2に比べて半分以下と低いため、本物質の測定は困難を極めたが、多数の試行回数を重ねることで、超伝導ギャップの直接観測に世界で初めて成功した。その結果、超伝導対称性はd波を示唆しており、これはk-(BEDT-TTF)2Cu(NCS)2の結果と類似している。さらに超伝導対称性から超伝導発現機構の詳細を知るためには波数分解した(角度分解)超伝導ギャップの情報が必要である。 一方で角度分解についてはやはり世界初となる有意な分散を認めたものの、その強度は非常に小さく、複数の角度において角度分解スペクトルを得るには至らず、現時点において角度分解スペクトルから得られる情報は僅少である。 現時点において、超伝導ギャップ起源の完全な解明には測定の困難さからたどり着いていないが、従来型超伝導と異なる起源であることは明らかであり、今後の研究によってより詳細な情報を得ることができると考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題2年目を終え、研究計画に設定した課題はおおむねクリアしている。1年目より、研究計画と比してやや先行して研究を遂行し、その研究目的の達成に成功しており進行状況は順調といえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も当初の本研究計画に基づいて研究を推進する予定である。昨年度に引き続き、特に分子性導体の清浄表面を得るための劈開についてはノウハウの蓄積を更に続け、より高い確率で劈開に成功するよう研鑽を重ねる。 これからの研究内容は装置改良から測定にシフトしていくため、十分な測定時間を得られるようにする。
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