2019 Fiscal Year Annual Research Report
Microscopic theory for multipole ordering and superconductivity in f-electron many-body systems on the basis of a j-j coupling scheme
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16H04017
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
堀田 貴嗣 首都大学東京, 理学研究科, 教授 (00262163)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
服部 一匡 首都大学東京, 理学研究科, 准教授 (30456199)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 近藤効果 / 超伝導 / 多極子 / 非クラマース二重項 / 強相関f電子 / 量子臨界点 / 超ウラン系 / 非フェルミ液体 |
Outline of Annual Research Achievements |
2002年にPuCoGa5においてTc=18.5Kという重い電子系としては高温の超伝導が発見され,注目を集めた。2012年にPuCoIn5が合成されたが,Tc=2.5KとPuCoGa5より一桁も低いTcであり,GaとInの違いでそこまでTcが下がる理由は不明のままであった。この原因を結晶場ポテンシャルによる違いに求め,それがTcに敏感に効く理由を探るため,Pu3+の5f電子状態をj-j結合描像に基づいて考察し,Γ6とΓ7の2軌道に関する2次元正方格子上のモデルを構築した。Γ7軌道は結晶場に関するパラメータθによって変化するが,ある特別な値θ0でΓ7は局在軌道となる。その近傍で磁気秩序ベクトル(π,π)の反強磁性状態が現れ,さらにその周辺でd波超伝導状態が現れることを見出した。115系に対するθを実験結果から推測すると,θ0に近い値を取っていることから,θのわずかな違いでTcが大きく変化する可能性があることを指摘した。 密度行列くりこみ群法を用いて,局在スピンと伝導電子が結合した一次元近藤格子模型を横磁場中で解析した.その結果,横磁場中において,近藤一重項が磁場によって破壊された領域の朝永・ラッティンジャー液体相において,奇パリティの超伝導相関が増強することを見出した。 超ウラン系における2チャンネル近藤効果発現の可能性を示した。Γ8の2バンドと混成する7軌道アンダーソン模型を数値繰り込み群法によって解析し,局所f電子数n=4のNp3+あるいはPu4+イオンにおいて,2チャンネル近藤効果が発現することを見出した。 さらに,n=2のPr3+イオンに対して,Γ8とΓ7の3バンドと混成する場合も解析し,2チャンネル近藤状態と結晶場一重項状態の狭間に,残留エントロピーlogφで特徴づけられる奇妙な量子臨界状態が出現することを発見した。ここで,φ=(√5+1)/2(黄金数比)である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では,j-j結合描像に基づいて,強相関f電子系の磁性や超伝導を微視的観点から解明することを目標に掲げている。 具体的な課題の一つとして,Pu系の高温超伝導に関する研究があった。PuCoGa5のTcが20K近くの高温なのに,PuCoIn5のTcはその約1/10の値になっていることが不思議であったが,2019年度の研究で,結晶場ポテンシャルによって敏感にTcが変化する場合があること,115系のパラメータがちょうどそのあたりに位置していることを見出し,一定の結論を得ることができた。 ウラン化合物の超伝導の研究として,密度行列繰り込み群法を用いて一次元近藤格子模型を解析し,奇パリティの超伝導相関が増強することを見出すとともに,超伝導秩序変数として,複合粒子クーパー対の効果までを含めて初めて解析し,その割合が非常に大きいことを明らかにした。この研究によって,URhGeの強磁性超伝導とそのリエントラント超伝導について,微視的な理解が深まったといえる。 近藤効果に関する研究では,予想を上回る成果あげている。2017年度には,従来知られていなかったNd系での2チャンネル近藤効果を発見し,2018年度には,3チャンネル近藤効果と予想していた現象が,2チャンネル近藤状態と局所一重項状態の競合に創出する新しい量子臨界現象であることに気づいた。2019年度には,NpイオンやPuイオンを含む超ウラン系でも2チャンネル近藤効果が起こることを理論的に示したが,そのアイデアは,j-j結合描像に基づく近似的な電子・正孔対称性にあり,j-j結合描像の考え方が極めて有効に働いた成果と言える。2チャンネル近藤状態と局所一重項状態の競合に創出する新しい量子臨界現象の研究は,コロナ禍の影響でやや遅れたが,繰り越しによって翌年度にも研究を進め,予定通り,2020年9月の日本物理学会でオンライン発表を行うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
7軌道アンダーソンモデルにおいてΓ8とΓ7の3バンドと混成する場合の解析を進める。2019年度には,2チャンネル近藤状態と結晶場一重項状態の狭間に,φ=(√5+1)/2(黄金数比)として,残留エントロピーlogφで特徴づけられる奇妙な量子臨界状態が出現することを発見したが,2チャンネル近藤状態と近藤一重項状態の間にも同量子臨界点があることが予想されるので,これを探索する。また,従来よく知られていた結晶場一重項状態と近藤一重項状態の間に現れる量子臨界点についても,その存在を確認する。 また,Γ8とΓ7の3バンドと混成する場合,3チャンネル近藤効果が現れないか,徹底的に探索する。これまで調べたところ,局所f電子数n=1からn=6までの間では見つからなかったが,n=7のGdイオンからn=13のYbイオンまでの重希土類の場合に3チャンネル近藤効果が出現する可能性を追求する。 面心立方構造をもつPr系物質における秩序構造を念頭において,異方的な四極子間相互作用を導入して,面心立方格子上におけるΓ3四極子秩序構造を詳細に調べる。 マルチバンド超伝導の研究では,BiS2系を念頭に,一軸性圧力効果による超伝導機構の同定の可能性を探る。縮退した軌道が分裂するときに,スピン揺らぎ機構とフォノン機構で超伝導転移温度の変化の仕方に違いが出る可能性があり,これを利用して,機構解明が進むことを期待している。
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