2016 Fiscal Year Annual Research Report
鉄系超伝導体における超伝導とnematic相の関係解明
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16H04024
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
花栗 哲郎 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, チームリーダー (40251326)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 鉄系超伝導 / 走査型トンネル顕微鏡 / 超伝導ギャップ / Nematic相 |
Outline of Annual Research Achievements |
鉄系超伝導体における超伝導とnematic相の関連を明らかにするため、FeSeの電子状態を走査型トンネル顕微鏡による分光イメージングで調べている。今年度は、Seサイトを同じ価数を持つSで置換してnematic相を系統的に抑制し、その際に電子状態にどのような変化が生じるか研究した。nematic相はSを17%以上ドープすると抑制され、最低温まで正方晶相が保たれることが報告されている。今年度はSを最大23%まで置換した7種類の試料に対して実験を行い、準粒子干渉効果の解析からバンド構造を、高エネルギー分解能トンネル分光によって超伝導ギャップを、それぞれ調べた。 FeSeの準粒子干渉パターンは3つの正孔的な分枝と1つの電子的な分枝から構成され、nematicityを反映して強い面内異方性を持つ。S置換に伴い異方性が小さくなるとともに11%程度ドープしたところで正孔的分枝が2本になることが見出されたが、nematic相の臨界濃度17%では、バンド構造に顕著な変化は見られなかった。消失した正孔的分枝は電子バンドのDiracコーンに関連すると考えているが、最終的な結論にはさらに詳しい検討が必要である。 超伝導ギャップに関しては、FeSeはギャップに強い異方性があるが、Sをドープしてもnematic相にある限りトンネルスペクトルの形状はほとんど変化せず、超伝導ギャップがSの影響をほとんど受けていないことが分かった。一方、臨界濃度以上のSをドープすると、超伝導ギャップは大幅に抑制されることが分かった。この結果は、静的なnematic相の消失は超伝導に不利であることを示唆している。また、臨界点近傍で転移温度の上昇や超伝導ギャップが大きくなる傾向がみられないことから、nematic相の揺らぎが超伝導発現に寄与していないことも示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
S置換系に関して準粒子干渉の実験が非常に順調に進み、研究期間全体を通じて取得すべきデータを今年度ほぼ全て取得することができた。その結果、Nematic相と超伝導の関係の一つの側面は明らかになった。一方、もう一つの研究対象であるTe置換系に関しては、十分な大きさの試料がまだ得られていない。
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Strategy for Future Research Activity |
S置換系のデータはそろったが、準粒子干渉パターンの解釈は複雑であるので、今後、シミュレーションとの比較を行いたい。また、別の観点からNematicityに関して知見を得るため、渦糸芯の電子状態のS濃度依存性に関してもデータを取得したい。 Te置換系に関しては、より大きな結晶を得る努力を継続する他、溶融法で作製した試料に対する実験も試みる。
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Research Products
(7 results)