2017 Fiscal Year Annual Research Report
Perturbative analysis from the integrable limits on the dynamics of fractional excitations in quantum spin liquids
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16H04026
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
宇田川 将文 学習院大学, 理学部, 准教授 (80431790)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 量子スピン液体 / 分数励起 / Kitaev模型 / スピンアイス / 幾何学的フラストレーション / ダイナミクス / 核磁気共鳴 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、量子ダイナミクスをもつ擬可解模型の励起スペクトルを求める摂動論の最初の適用対象として、Kitaev模型の動的磁気相関の解析を行なった。まずは摂動の0次に対応する解析として、Kitaev模型の可解極限における磁気構造因子の解析を行ない、その実時間表示における厳密な表式を得ることに成功した。また、その応用例として、システムにサイト欠陥がある場合に適用した結果を得た。従来、Kitaevスピン液体の磁気相関は数値解析接続を用いた手法によって解析がなされていたが、本研究では実時間形式を用いることにより、精度の制御が困難な数値解析接続を必要としないformalismを構築できたことは意義深い。また、このformulationを適用することにより、サイト欠陥のあるKitaevスピン液体において、欠陥周りにVison励起に由来するゼロエネルギー状態形成が生じることを見出した。Kitaevスピン液体においてはスピン自由度が伝導的なMajorana粒子とVisonに分裂して振る舞う、「分数化」と呼ばれる現象の存在が知られているが、伝導的Majorana粒子の存在を示唆する実験結果とその理論的解釈が複数存在することに比べ、Visonの存在を示す徴候はこれまで知られていなかった。本研究はゼロエネルギー共鳴を通じてVisonの存在を実証する手段を提起する初めての理論的提案であり、意義深い結果と言える。実際、Visonによるゼロエネルギー共鳴は例えばNMRによるスピン格子緩和率の測定により計測できる現象であり、Visonの存在を示す具体的な実験的手段を初めて与えた事になる。 また、異なる方向性の研究として、前年度見出した、スピンアイス系における、同種電荷間の引力に起因する古典スピン液体形成の可能性をさらに追求し、連続スピン系における磁気相関の発達の様子とクーロン相との関係を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
摂動論の構築において、摂動の0次の計算を高精度に遂行することは非常に重要である。これまで提案された数値解析接続による動的相関関数の計算法は数値誤差の制御が難しく、例えば不純物がある系などへの適用については計算の信頼性を担保するのに困難が伴う。本研究では実時間表示における動的相関関数の厳密な表式を得ることにより、この点を克服することが出来た。厳密な表式の導出は予定していなかった結果であり、当初の計画をはるかに越えた成果に相当する。 また、摂動の0次の範囲で、サイト欠陥におけるゼロエネルギーVison共鳴という現象を見出したことも、当初の予定を越える成果である。可解極限からの摂動を考慮する最大の理由は、可解模型では保存量であり、ダイナミクスをもたないVisonの動的性質を明らかにし、実験的な検出を可能にするためであったが、今年度、摂動を考慮しない範囲でもVison特有の性質を反映する顕著な現象を見出すことが出来た。特にゼロエネルギー共鳴はNMRの縦核磁気緩和率など局所的なプローブでの検出が可能である。Visonは量子計算への応用等において最も重要な素励起であり、その存在証明を可能とする具体的手段を提案できたことは大きい成果と言える。 また、昨年に引き続き、スピンアイス系において、同種電荷間に働く引力、という直観に反する物理的状況で期待される諸現象を明らかにし、現存するスピネル化合物等の実験解釈を与えたことは著しい成果である。とりわけ、連続スピン自由度をもち、クーロン相を示す典型例である反強磁性Heisenberg模型に対して、クーロン相近傍で典型的に期待されるスピン相関のタイプを分類し、対応するイジング系の諸相との対応関係を与えることに成功した。これも年度当初には漠然としか予期できなかった結果であり、当初の期待以上の大きな成果を挙げたと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は今年度得られた知見を踏まえつつ、当初の予定通り、量子摂動項を考慮した、可解極限からの摂動展開を遂行する。特に、摂動項の存在により大きな影響を受けると考えられる、動的な性質に注意する。具体的には、Kitaev模型にHeisenberg項やGamma項を加えた模型に対し、動的磁気構造因子を解析する。また、Kitaev模型に磁場を印加した模型についても、可解性を破る磁場効果を摂動として扱い、同様に解析を行なう。特に興味深いのは、磁場下において実現が期待されるトポロジカル秩序相の検出である。本研究では、このトポロジカル秩序相の検出の二つの大きな特徴である、非可換エニオンとエッジ状態を動的磁気相関を通じてとらえることをひとつの目標とする。非可換エニオンについては、動的構造因子に現れる、アハロノフボーム効果の特性を明らかにすることが鍵である。エッジ状態については、システムエッジ近傍における局所磁気相関の振る舞いを調べることが重要である。 また、量子スピンアイス模型についても同様に、摂動展開の定式化を行う。こちらはRokhsar kivelson pointを可解な摂動の出発点と定め、この点からの摂動展開の構築を行なう。Rokhsar kivelson pointにおいては種々の相関関数を古典モンテカルロ法で計算することが可能である。しかしながら、この特殊な点は、photon励起の剛性が消失しているなど、ダイナミクスに関しては量子スピンアイスの一般的な特性を再現しないと考えられている。このような状況を鑑み、本研究では、Rokhsar kivelson pointからのずれを摂動的に考慮することによって、量子スピンアイスの典型的な動的性質を再現する摂動論を構築し、そのformalismに基づき、輸送係数など、観測可能な諸量を網羅的に解析する理論計算のベース構築を目指す。
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Research Products
(14 results)