2018 Fiscal Year Annual Research Report
日本下のプレート沈み込みとマントルウェッジの温度場・水輸送・異方性のダイナミクス
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16H04040
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
吉岡 祥一 神戸大学, 都市安全研究センター, 教授 (20222391)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中島 淳一 東京工業大学, 理学院, 教授 (30361067)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | マントルウェッジ / 温度場 / 水輸送 / 異方性 / ダイナミクス |
Outline of Annual Research Achievements |
1. 海洋プレートの沈み込みに伴う高解像度3次元温度分布の推定(吉岡) Hi-netの地殻熱流量データ、ヒートプローブ、ボアホールの地殻熱流量データ(Tanaka et al., 2004;Yamano, 2004)を拘束条件として、海溝・トラフ軸から背弧までのプレートの沈み込みに伴う温度分布を高解像度で推定した。この目的のため、Manea氏らが開発した、モデル領域を数十の小領域に分割し、各小領域を各CPUに割り当てて並列計算を行う領域分割法の手法を本計算コードに導入し、10km程度の空間分解能の計算を可能にした。沈み込む海洋プレートの年齢、沈み込み速度、プレートの3次元形状を与え、プレートが沈み込んでからの経過時間・熱拡散率の空間分布・ポテンシャル温度・プレート境界での間隙水圧比・蛇紋岩化に伴うマントルウェッジとスラブ間の粘性デカップリング~カップリングの遷移域の深さなどの不確定要素に対してグリッドサーチを行い、各パラメターが取りうる値を絞り込んだ。
2. マントルウェッジ・スラブの地震波不均質構造の解明(中島) マントルウェッジの不均質構造の解明を目的に、東北地方南部から中部日本にかけての領域で深さ約300kmまでの3次元P波減衰構造の推定を行った。その結果、深さ200km以浅には大規模な地震波高減衰域が存在し、それは地震波低速度異常とよく対応することがわかった。一方で、太平洋スラブ直上からマントルウェッジに伸びる高減衰領域は地震波速度では顕著な低速度を示さないことが明らかになった。また、東北地方下の二重深発地震面下面で発生する地震について、スラブ内を波線が伝播する方位とプレート表面とのなす角で分類し、下面に沿う地震波異方性の予備解析を行った。波線数が少ないため、さらなる解析が必要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1. 海洋プレートの沈み込みに伴う高解像度3次元温度分布の推定(吉岡) 豊富な地殻熱流量データを収集、コンパイルし、その空間的特徴を明らかにすることができたことに加え、共同研究者のManea氏が1か月間、神戸に滞在し、短期間とはいえ、密な共同研究を実施し、プログラムの移植を行えたことと、その後、吉岡が短期間、メキシコに渡航する機会を得て、移植したプログラム上の問題点を解決できたことが研究を進めることに大いに役立った。
2. マントルウェッジ・スラブの地震波不均質構造の解明(中島) 良質で多量の地震波形が必要であるため、これまでその解析が難しかった3次元地震波減衰構造の推定を着実に進めることができている。そこでは、特に深い地震のP波到着時刻の読み取りを丹念に行うことで、より充実したデータセットの作成を試みると同時に、深い地震にも適用できるよう解析手法を改良した。引き続き解析を行い、従来にない分解能で地震波減衰構造を推定することで、マントルウェッジでの対流に影響を与えるスラブ起源流体の分布に制約を与えることができると期待される。なお、対流の方向を反映する地震波異方性構造についてはまだ系統的な調査は進めることができていないが、解析のためのデータ収集と解析プログラムの開発はすでに終えている。今後は地震波減衰構造において異常の大きい領域を通過する波線を優先的に解析することで、不均質構造とマントル対流の関係を明らかにすることができると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
1. 海洋プレートの沈み込みに伴う高解像度の3 次元温度構造 オリビンに対して、高温高圧実験で得られている温度・圧力・周波数・結晶サイズに依存するFaul and Jackson (2005)の式を用い、得られた3次元温度構造をS波減衰構造に変換する。得られた減衰構造の計算値とトモグラフィによる観測値との差から、温度構造以外の物質に起因する減衰異常を3地域で抽出し、物質異常とその地域性の原因を解明する。また、関東地方下には、フィリピン海・太平洋の両プレートが沈み込んでいるが、同地方の低地殻熱流量から、同地方下では著しい低温場が実現されていることが予想され、数値シミュレーション結果とトモグラフィ・微小地震の分布を比較し、3次元的な温度場と地震学的微細構造について議論する。
2. 海洋プレートの沈み込みに伴う海洋性地殻からの脱水とその後の水のゆくえ 昨年度までに作成したデータセットを用いて中部日本の地震波減衰構造を推定することで、フィリピン海プレートと太平洋プレートとの2つのプレートの沈み込みによって生じるマントルウェッジの構造不均質と火山へのマグマ供給系を明らかにする予定である。また、富士山と箱根は距離が近いにもかかわらず、噴火様式は大きく異なることが知られている。噴火様式の違いは深部のマグマ供給系の違いと関係する可能性があるため、両火山の地震は不均質構造およびマントル対流パターンの変化に注目した特化した解析も行う。最終的には、本計画で得られた結果を統合して定量的解釈を行うことで、プレート沈み込みに起因する含水鉱物の脱水位置、マントルウェッジの対流方向、マグマ生成領域とその上昇経路などの理解を深めていく予定である。
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