2018 Fiscal Year Annual Research Report
星間アモルファス氷の普遍的な過冷却液体化の可能性とその物性
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16H04072
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
香内 晃 北海道大学, 低温科学研究所, 教授 (60161866)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | アモルファス氷 / 紫外線照射 / 液化 / 誘電緩和 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまですべての研究者がアモルファス氷(pure H2O, 不純物を含むもの,紫外線照射をしたもの)を広い温度範囲で固体と考えてきた.しかし,代表者らは不純物を含むアモルファス氷(H2O:NH3:CH3OH=10:1:1)に10Kで紫外線を照射した試料を,その後,紫外線照射をやめて昇温させると,70-140Kで液体になっていることを発見した.本研究計画では,アモルファス(固体)と液体を区別する一般的手法である誘電測定により,広い組成,紫外線照射の有無でこれまでアモルファス氷と考えてきたものが,固体であるか液体であるかを明らかにする.これは,惑星科学的にもこれまでの描像を全面的に書き換えるかもしれない重要な課題であり,物理化学的にも興味深い.
昨年度に引き続き,氷薄膜の誘電率の温度依存性の測定を試みている.昨年度測定が困難であったと考えた理由は次の2点であった.(1) LCRメーターの低周波数領域(1mHzから12316;1Hz)での性能が悪い,(2) 作製した氷試料が薄い.これらの問題を解決すべく,以下を試みた.高性能の誘電率測定装置を借用し,さらに,厚い氷薄膜を作製して誘電率測定を行なった.その結果,試料ホルダーにガタがあることが判明した.
透過型電子顕微鏡を用いた実験では, 10Kで紫外線照射を行ったアモルファス氷は,その後の温度上昇過程で液化現象を示すことを再確認した.しかし,80Kで作製したアモルファス氷に80-120K紫外線を照射しても液化は全く観察されず,むしろ結晶化を促進するという驚くべき結果が得られた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
氷薄膜の誘電率の温度依存性の測定では,昨年度の問題を克服すべく,高性能の誘電率測定装置を借用して厚い氷薄膜を作製して誘電率測定を行なった.その結果,試料ホルダーにガタがあることが判明した.現状では信頼できる測定が困難であることがわかり,試料ホルダーの改良を行っている.この観点からみると,計画より研究の進展が若干遅れていると判断される.
いっぽう,透過型電子顕微鏡を用いた実験では,80Kで作製したアモルファス氷に80K以上の温度で紫外線を照射しても液化は全く観察されず,むしろ結晶化を促進する結果が得られた.これは,当初の計画にはなかった非常に興味深い結果である.これは液化のメカニズムを議論する上で重要な情報になると考えている.
上記の2点を総合的に勘案して,研究は「計画通りおおむね順調に実施できた」と判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
試料ホルダーを改善してガタをなくすようにする.最終的には当初目的の誘電率の温度依存性の測定を達成したい.液化のメカニズムに関しては,本年度に80Kでアモルファス氷に紫外線を照射しても液化するどころかむしろ結晶化を促進することが分かったので,液化のメカニズムを考察して行きたい.以上の研究方法により,当初の研究目的を十分に達成することができると考えている.
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