2017 Fiscal Year Annual Research Report
高精度電子論に基づく磁気分光シミュレーション法による金属酵素・触媒の反応性解明
Project/Area Number |
16H04101
|
Research Institution | Institute for Molecular Science |
Principal Investigator |
柳井 毅 分子科学研究所, 理論・計算分子科学研究領域, 准教授 (00462200)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中嶋 隆人 国立研究開発法人理化学研究所, 計算科学研究機構, チームリーダー (10312993)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 理論計算 / 金属酵素 / 触媒 / 磁性 / 繰り込み群 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題では、密度行列繰り込み群(DMRG)法に基づく量子化学計算から、二種類の磁気分光プロパティー値(超微細構造とΔg-値)を算出する手法開発を行ってきた。この計算法を用いて、分子構造を入力することで第一原理的にEPRスペクトルをシミュレートできる一連の計算スキームの確立を目指している。高精度波動関数は、密度行列繰り込み群(DMRG)と呼ばれる一電子近似を超えた多配置理論から求める。H29年度では、基底状態に加えて複数の励起状態を数値的に安定に取り扱う理論手法である多状態多参照波動関数理論をベースとする拡張二次摂動理論CASPT2法の開発を行い、その計算プログラムの実装を達成した(Yanai et al. JCTC 2017)。本拡張理論では、零次ハミルトニアンを通じた複数状態間のカップリングを厳密に取り入れることにより、摂動波動関数の記述における数値的安定性や精度の向上がもたらされた。これは、同波動関数をベースとするEPRスペクトルのシミュレーションの精度向上に直結する成果である。また、量子化学計算の計算効率の向上を目指して、射影補強波(PAW)法とよばれる擬ポテンシャルを分子軌道計算に組み入れる手法開発を行った(Xiong et al. JCTC 2017)。PAW法は、固体物理の第一原理計算で高精度かつ高効率にバンド構造を求める基盤的手法として成功していることが知られている。PAW法は、価電子軌道を数値的に滑らかな表現へと変換することで、その計算コストを効果的に軽減可能な方法である。本研究ではPAW法をガウス型基底を用いた分子系の計算に組み合わせる初めての開発を達成し、その有効性を数値的に実証した。同手法は、EPR計算にも適用されることが知られ、本研究開発のボトムアップとして用いることができる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
拡張多状態理論を取り入れた多状態DMRG-CASPT2計算を行うための高速化・高度化を進めることができた。高精度波動関数は、密度行列繰り込み群(DMRG)と呼ばれる一電子近似を超えた多配置理論から決定し、大規模な活性空間に基づく量子的重ね合わせ状態による電子波動関数を用いる。超微細構造の磁気物性値を求めるためのアルゴリズム開発を行なってきた。新しく開発されたCASPT2レベルでの超微細構造計算を、金属錯体系に応用し、その計算精度を検証した。CASPT2で記述される動的電子相関が精度に重要な役割を担うことが実証された。分子に対する磁気分光パラメータを波動関数計算の線形応答から求める理論開発を進めている。具体的には、密度行列繰り込み群(DMRG)の波動関数計算に対して、外部磁場の応答を組み入れる手法開発を行っている。また、更に、その応答計算をDMRG-CASPT2レベルの精度で実行できるような手法のプロトタイプも行った。量子化学計算の効率化を目指して、射影補強波(PAW)法とよばれる擬ポテンシャルを分子軌道計算に組み入れるアプローチを開発した。
|
Strategy for Future Research Activity |
H30年度は、前年に続き、二種類の磁気分光プロパティー値(超微細構造とΔg-値)を算出する手法開発を継続して進める。gテンソルの計算の要は、波動関数の外部磁場に関する一次微分(線形応答)の計算である。DMRGへの拡張では、摂動・線形方程式をDMRGスイープアルゴリズムに基づき解き、DMRG波動関数の一次微分を算出する手法の開発を行う。摂動として、スピン軌道およびZeeman相互作用を考慮する必要がある。スピン軌道相互作用の高精度・高速計算法およびZeeman相互作用の積分コードの基盤を用いて、開発を迅速に進める。また、擬相対論近似を取りいれるDK3描像変換も用いる。DMRG波動関数の一次微分方と、多状態DMRG-CASPT2計算の線形応答理論等を組み合わせ、CASPT2レベルでの磁気物性を計算可能な手法を開発する。
|
Research Products
(12 results)