2016 Fiscal Year Annual Research Report
色素ラジカル-光励起多重項の自在制御に基づいた光機能分子の創製
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16H04128
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
石井 和之 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (20282022)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
榎本 恭子 東京大学, 生産技術研究所, 技術職員 (50772711)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 色素 / ラジカル / 光励起多重項 / 光機能 |
Outline of Annual Research Achievements |
リポソームに疎水性蛍光プローブR2cを取り込んだ場合、R2cはリポソーム内側の疎水性領域に分布するため、水溶性物質との反応からラジカルを保護する一方、疎水性領域まで入り込んだビタミンCとのみ反応するため、反応性も低下してしまう。そこで、血液中のタンパク質BSAダイマーとR2cを選択的に複合化させた新規ビタミンC検出用蛍光プローブ(R2c@(BSA)2)を開発し、①BSAダイマーはR2cラジカルを保護すること、②R2c@(BSA)2は1μMのビタミンCでも検出可能であること(リポソーマルR2cに比べて100倍以上低濃度)等を見い出した。R2c@(BSA)2を用いて、マウス中におけるビタミンC の蛍光バイオイメージングを行い、マウス中における活性なビタミンCのイメージングに初めて成功した。高濃度ビタミンC療法の発展や新規蛍光プローブの設計において有用な知見になり得る。 また、近赤外吸収・発光性分子の設計指針を得るために、(1)π共役系の拡張、(2)1060 nm付近に発光を有するネオジムイオン(Nd3+)Nd3+イオンの利用、2つの観点から研究を遂行した。(1)の研究では、アントラセン環を有するケイ素アンソラコサイアニン(SiAc)を新規に合成した。金属Pc類縁体と同様に、SiAcでは、近赤外領域の870nm付近にシャープなQ吸収帯、880nm付近にシャープな発光が観測された。以上のように、近赤外領域にシャープかつ強いQ吸収帯を示し、発光を示す分子の合成に成功した。(2)の研究では、Nd3+の1060 nm付近の発光が、励起状態(4F7/2)から励起状態(4I11/2)の遷移に相当するため、S1-T1分裂が小さい積層型ポルフィリン錯体においても、近赤外光励起によるNd3+発光の利用は困難であることを実験的に明らかとした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
①近赤外吸収・発光性分子の研究において、Nd3+発光の利用が困難であることが実験的に明らかとなったが、近赤外領域にシャープかつ強いQ吸収帯を示し、発光を示すSiAcの新規合成に成功したこと、② BSAダイマーとR2cを選択的に複合化させた新規ビタミンC検出用蛍光プローブ(R2c@(BSA)2)を開発し、マウス中における活性なビタミンCのイメージングに初めて成功したこと等から、研究は概ね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
① ラジカルスピンの環境制御:平成28年度までの研究で見出された高機能性蛍光プローブBSA-R2cを用いたビタミンCバイオイメージングに関する成果を論文化する。また、本系の鍵は、水溶液中のビタミンCが、どのように、BSAで保護されたラジカルに辿り着き、多電子移動反応を起こすかを明らかとすることである。そこで、蛍光強度の時間変化について、微分方程式を用いてシミュレーションすることで、多電子移動反応の描像を明らかとする。さらに、生体内レドックス分子である過酸化水素やグルタチオンなどと比較することで、ビタミンCとBSA-R2cの反応物質選択性を調べることで、BSAによるラジカル保護の効果を明らかとする。また、このようなBSAダイマーとR2cの複合化が一般的な反応であるかを明らかにするために、他の光機能性分子とタンパク質との複合化も検討する。 ② 近赤外光用発光プローブ:平成28年度までに合成したアントラセン環を有するケイ素アンソラコシアニン(SiAc)の発展として、テトラセン環を有するケイ素テトラコサイアニン(SiTc)の合成も試みる。 ③ SOMO由来の強い発色を示すラジカル色素:上記蛍光プローブを用いた検出・分析法は、高感度であることやイメージングできること等の利点を有するが、蛍光測定装置が必要となるため、その使用範囲は限定される。①可視領域に強い電子吸収を持ち、②抗酸化物質との反応により色変化するラジカルを用い、簡便に抗酸化物質を検出・分析する方法の開発を試みる。具体的には、pHの簡易的定量に広く使用されているリトマス試験紙に倣って、平成28年度までの研究で見出したしたラジカル色素(ニトロニルニトロキシド誘導体、1,1-ジフェニル-2-ピクリルヒドラジルラジカルなど)をろ紙などの高分子基材に担持し、ビタミンC水溶液との反応により色が変化するビタミンC試験紙を開発する。
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Research Products
(26 results)