2017 Fiscal Year Annual Research Report
Estimation of metabolism activity for contractile single myotubes with pattern on the substrate
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16H04169
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
安川 智之 兵庫県立大学, 物質理学研究科, 教授 (40361167)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 電気化学顕微鏡 / 単一細胞 / 酸素消費 / 酵素センサ / グルコース |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,電気化学顕微鏡を用いて,単一筋管細胞の酸素消費速度およびグルコースの取り込み速度を同時に計測できるシステムを確立し,拍動する筋管細胞の酸素消費およびグルコース取り込み速度を測定することである.本年度は,この目標を達成するために,細胞の拍動に伴う電極-細胞表面間の距離変化を回避した電気化学顕微鏡システムの開発に取り組んだ. 平板基板上に培養した筋管細胞にマイクロ電極を近接させて電気化学計測を行う場合,電気パルス刺激により細胞拍動を誘発すると収縮時に細胞が変形し,電極-細胞表面間の距離が変化する.これによる溶液の対流が酸素濃度計測の障害となる.そこで,多孔質のPET膜上に筋管細胞を培養し,このPET膜を自作のマイクロ流路デバイスの上面に設置した.細胞は流路の上面に下向きに培養されている.このPET膜上面からマイクロ電極を近接させ,PET膜に接触させてメニスカスを形成させた.この電極の電位を掃引することにより,マイクロ電極に特有のシグモイド型の酸化還元波が得られ,電気化学計測が可能であることがわかった.細胞の存在する真上の位置にマイクロ電極を設置させた際の酸素還元電流は細胞の存在しない位置における電流と比較して明らかに小さい.よって,細胞の呼吸による酸素消費をこのシステムで計測できることが示された.このシステムを用いると,細胞が拍動した場合でも電極-細胞表面間距離は,PET膜厚(2ミクロン)に規定され変化しない.また,PET膜上の気相にメニスカスを形成させて計測するので,金属ワイヤをマイクロ電極として用いることが可能となる.すなわち,電極面積を規定したディスクだけを露出させるためのマイクロワイヤ周囲のガラスシールの形成が不要である.これにより,極めて単純な電極を用いたマイクロ流路培養システムで,細胞周囲の酸素還元電流計測を可能にした.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
初年度に取り組んだ,デュアルマイクロ電極表面への局所的な酵素修飾および単一筋管細胞アレイの作製について,平成29年度も引き続き遂行し,初年度以上の成果を挙げることができた.また,「実績の概要」に記載した通り,細胞の拍動による電極-細胞膜表面間距離の変化による電流応答への影響を受けることなく,酸素濃度計測ができることを示せた.これは,多孔質膜とメニスカスを利用した新しい電気化学顕微鏡の開発につながる可能性があり,これらのことから,当初の計画以上に進展していると判断できる. マイクロ電極表面への局所的な酵素修飾では,初年度において酵素包括アルギン酸ゲル粒子を作製し,誘電泳動を用いて電極表面上に捕捉して局所的な酵素修飾を可能とした.平成29年度は,さらに簡便な手法としてドーパミンの電解重合による電極表面上へのポリドーパミン膜の形成により,デュアルマイクロ電極の先端に局所選択的に酵素修飾が可能となった.また,グルコース酸化酵素を包括導入して得られた応答は,これまでと同等以上であった.ドーパミンの電解重合膜の形成による酵素の局所的包括固定化法を用いると,わずか数分で目的の電極表面だけに選択的に酵素膜を固定化できた.電気化学的なプロトンの電解還元により電極近傍のpHを局所的に塩基性にすると電極表面でドーパミンの自己重合反応が進行し電極表面をポリマー化可能であった. また,ステンシルを利用した細胞接着性領域の作製にもポリドーパミンを使用した.ポリドーパミンを用いて細胞接着領域を形成し,その上で細胞を培養すると筋芽細胞がパターン培養され,十数日間の長期間パターンを維持した.これにより,パターン化した筋芽細胞の筋管細胞への分化誘導と拍動誘発を行う準備が整った.これも,最終年度に行う予定の単一筋管細胞のグルコース取り込み量の決定に必要不可欠な成果である.
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度までに,筋管細胞の拍動時における細胞近傍の酸素還元電流の経時計測,デュアル酵素センサの作製,筋管細胞アレイの作製を行ってきた.さらに,ガラス基板等の絶縁性基板上に培養した筋管細胞を横方向からの電気パルスで拍動誘発する場合,溶液の厚さによって拍動効率が異なるため,多孔質膜上に細胞を培養し,縦方向に電気パルスを印加することによる拍動誘発を達成した.細胞が拍動すると膜の物理的な収縮により溶液のわずかな対流と電極-細胞間距離の変化が起こり電流計測を阻害する.しかし,多孔質膜上に細胞を培養し,培養面と逆側から電極を接触させた電気化学計測により,電極-細胞間距離を保持して計測できる可能性を示した. 本年度も引き続き,ポリドーパミンの電解重合および自己重合を積極的に利用し,迅速で簡便に酵素膜を局所選択的に固定化法する手法を開発し,デュアルマイクロ酵素電極の作製を行う.また,ポリドーパミンを細胞の接着性制御に用い,その表面で細胞を培養,分化誘導させて単一筋管細胞アレイを取得する.作製したデュアルマイクロ酵素電極を単一筋管細胞の直上に配置し,単一筋管細胞の拍動に伴う酸素消費とグルコースの取込みを同時に調査する.さらに,蛍光法を利用して細胞内へのグルコース輸送を担うGLUT4のトランスロケーション,インスリン受容体およびアセチルコリン受容体の分布を評価し,拍動時の酸素およびグルコース取り込みとの連関を評価する.多孔質膜を介したメニスカス形成型の電気化学顕微鏡に関しても,今年度も引き続き開発を行う.貴金属ワイヤ電極を多孔質膜に接触させ,形成されたメニスカス内の電気化学計測により,多孔質膜のもう片面に培養されている細胞の活性や機能を電気化学的に取得する.
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Research Products
(27 results)