2016 Fiscal Year Annual Research Report
鉄酵素活性機構の解明を加速する高分解能・高感度核共鳴振動分光装置の開発
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16H04172
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Research Institution | Japan Synchrotron Radiation Research Institute |
Principal Investigator |
依田 芳卓 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 利用研究促進部門, 主幹研究員 (90240366)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 量子ビーム / 酵素反応 / 核共鳴振動分光 / 生物化学 / 核共鳴散乱 |
Outline of Annual Research Achievements |
核共鳴振動分光法は複雑な構造を有する酵素のなかで、活性中心にある鉄の振動のみを抽出できるという大きな特徴をもつ。活性中心に金属をもつ金属酵素のなかで鉄酵素は水素を酸化還元するヒドロゲナーゼをはじめ、エネルギー問題・食糧問題・医療などと密接に関わっているものが多い。一方、分解能や強度の不足により、観測したい試料・振動モードが限定されることは利用の大きな障壁となっている。本研究では、極めて重要でありながらこれまで測定困難であった鉄酵素の活性機構の解明に資するため、鉄酵素試料に最適化された高分解能・高感度の核共鳴振動分光装置を開発することを目的としている。 平成28年度は計画に従って、核共鳴振動分光装置内の高分解能モノクロメータに入射するX線の発散角を狭くする一次元屈折レンズの製作、評価を行った。SPring-8核共鳴散乱ビームラインBL09XUにおいて、14.4keVのX線に対しフルビームを使って発散角0.4秒のビームを得ることに成功し、申請書の想定シミュレーション値0.5秒を上回ることができた。また、この屈折レンズにおける透過率は98.5%と非常に高く減衰は軽微であり、平行化されたことによる最終的な透過率の増加が期待できることがわかった。一方、最適の平行化は想定した屈折レンズ3枚の条件ではなく、屈折レンズ1枚の条件で達成され、ビームの初期状態が予想していたものと違うことが示唆されるとともに、ビームラインによって最適条件が異なる可能性を否定できなくなった。このため平成29年度は、他のビームラインでもこの条件が当てはまるかどうかを確かめる予定である。 また、生物学的試料に最適化された核共鳴振動分光用高分解能モノクロメータについてまとめ、論文発表を行うとともに、国際ワークショップにおいて招待講演を行い、これら高分解能モノクロメータを含めた核共鳴散乱ビームラインに関する発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画通りX線の発散角を狭くする一次元屈折レンズの製作、評価を行い、SPring-8核共鳴散乱ビームラインBL09XUにおいて、14.4keVのX線に対しフルビームを使って発散角0.4秒のビームを得ることに成功した。この値は申請書の想定シミュレーション値0.5秒を上回ることができ、核共鳴分光装置に設置するのに十分な性能をもっていることが確認された。このため十分な性能が得られなかった場合に平成29年度に実施する予定であったミラー製作を考慮する必要がなくなった。また、この屈折レンズにおける透過率の実測値は98.5%と非常に高く、アパーチャー1mmの高さのビームを仮定した透過率90%を大きく上回ることができた。 一方、最適の平行化は想定した屈折レンズ3枚の条件ではなく、屈折レンズ1枚の条件で達成され、ビームの初期状態が予想していたものと違うことが示唆されるとともに、ビームラインによって最適条件が異なる可能性が否定できなくなり、追加の実験が必要となった。 以上のことから計画はおおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
製作した屈折レンズが他のビームラインでも同じ条件で平行化を実現するのか、もしくは違う条件で実現するのかを確認する以外、研究の推進方針に大きな変更はない。 確認の後は、高分解能モノクロメータで利用されている非対称Ge331反射と異なる非対称度をもつ2つのSi975反射の非対称パラメータを最適化し、製作を行う。平行して、平成28年度に打合せなどを行い、設計を進めた高分解能モノクロメータシステムを構築する。高分解能モノクロメータシステムは各結晶の精密回転を行う高精度ゴニオメータと超精密なエネルギー走査を行うピエゾ制御精密回転機構を有する。熱の問題や実装の手軽さを検討の結果、X線の減衰を防ぐために、システム全体は真空ではなく、ヘリウムで置換される予定である。 製作された屈折レンズと高分解能モノクロメータシステムをビームライン実験であわせて用いることにより、反射率と分解能がどの程度向上したか評価する。 最終的には、開発した装置の性能を活かして、未だ酵素において観測されたことのない鉄と水素の伸縮振動モードの観測をめざす。
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Research Products
(4 results)