2016 Fiscal Year Annual Research Report
Protein synthesis using circular RNA
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16H04178
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
阿部 洋 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (80415067)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 翻訳 / RNA / 環状 / ナノバイオ |
Outline of Annual Research Achievements |
我々はこれまでに終始コドンを持たない環状の mRNA を調製してタンパク質翻訳に用いることで、終わりのないタンパク質翻訳を実現することに成功している。すでに報告している環状 mRNA の翻訳では、直鎖状の mRNA を酵素で繋げている。しかし、この方法では細胞外から調製した環状 mRNA を導入する必要がある。そこで、細胞内で効率的に環状 mRNA を合成させるために、平成 28 年度は、スプライシング反応を利用して環状 mRNA を調製した。まず、mRNA に転写するための鋳型となる DNA を調製した。調整した DNA には翻訳開始のメチオニンの他、翻訳をウェスタンブロッティングで検証するための FLAG 遺伝子が環状 mRNA に導入されるように設計した。これらの DNA から調製した mRNA は電気泳動を用いて解析した。また、環化はエキソヌクレアーゼ耐性を調べることで確認した。これによりサイズの異なる mRNA をスプライシングによって調製することに成功した。 環状 mRNA を用いた翻訳系では終始コドンを持たない場合、タンパク質翻訳は停止しないと予想されるにも関わらず、タンパク質翻訳が途中で停止していることが観察されている。このことから、タンパク質翻訳が終始コドン非依存的に停止していることが翻訳効率を低下させていると考えられた。そこで平成28年度は、翻訳の停止が翻訳終結因子の影響であると考え、再構成型無細胞タンパク質翻訳系からタンパク質翻訳の終結に関わる翻訳解放因子 RF1, RF2, RF3, リボソーム・リサイクリング因子 RRF を除いた系を用意し、環状 mRNA の翻訳を行った。翻訳産物を抗 FLAG 抗体を用いたウェスタンブロッティングで解析した結果、RRF を除いた系ではタンパク質翻訳が効率化されることが観察された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成 28 年度は、環状 mRNA の調製法の検証と環状 mRNA を用いた翻訳機構の理解の両面で研究が進んだ。 当初の計画通り、スプライシングを用いて環状 mRNA を調製した。今年度は、リボソームが結合するシャインダルガーノ配列、開始コドン、任意の数の FLAG 遺伝子を持つ DNA を調製し、試験管内での転写反応を行うことで mRNA を調製した。転写後の mRNA がスプライシングによって環化しているかの確認は、エキソヌクレアーゼによって分解されるかを電気泳動で観察することで行った。その結果、調製した各 DNA から環状 mRNA を合成することに成功した。この結果から、大腸菌内で環状 mRNA を産生させ、目的タンパク質を大量発現させる準備が進んだといえる。 環状 mRNA を用いた翻訳反応の理解および効率化については、翻訳解放因子 RF1, RF2, RF3 とリボソーム・リサイクリング因子 RRF の影響を調べた。FLAG 遺伝子を持つ環状 mRNA をスプライシングによって調製し、再構成型の無細胞翻訳系で翻訳を行った。通常の実験条件で翻訳したものと、翻訳解放因子 RF1, RF2, RF3 またはリボソーム・リサイクリング因子 RRF を除いた条件で翻訳したものを抗 FLAG 抗体を用いたウェスタンブロッティングで比較した。その結果、RRF を除いた場合、翻訳が効率化することが見出された。また、RF1, RF2, RF3, RRF を除いた系の場合、翻訳が確認されなかったことから、これらの因子が翻訳にも必要であることが示唆された。これらの結果は、環状 mRNA を用いた翻訳系の分子機構を理解につながるため、タンパク質の効率的な生産につながることが期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
平成 29 年度以降は、引き続き、環状 mRNA の調製と環状 mRNA を用いた翻訳機構の解明を行うことで、目標としている環状 mRNA の合成法の確立、環状 mRNA のデザイン、環状 mRNA を用いた翻訳系の分子メカニズム解明、タンパク質の大量生産法の確立を行う。すでにスプライシングによる環状 mRNA の調製は進めており、今後は得られる環状 mRNA 量を比較することで長さと配列が環状 mRNA の収率に与える影響を調べる。タンパク質翻訳に最適な環状 mRNA のデザインを明らかにするために、サイズや配列の異なる環状 mRNA の翻訳効率を抗 FLAG 抗体を用いたウェスタンブロッティングで比較する。また、環状 mRNA のサイズと配列が翻訳解放因子 RF1, RF2, RF3 およびリボソーム・リサイクリング因子 RRF の作用に与える影響も同様の方法で評価する。これらの知見は、環状 mRNA のデザインについての知見が得られるだけでなく、回転翻訳系の分子機構の理解にもつながることが期待される。 翻訳効率は終始コドン非依存的な翻訳現象の停止が原因と考えられる。平成 28 年度の結果から、翻訳停止に関わる因子が翻訳を停止させていることが示唆された。我々は、リボソームの大サブユニットと小サブユニットをつなげた場合、終始コドン非依存的な翻訳停止が抑えられるのではないかと考えた。平成 29 年度からは、リボソームの大サブユニットと小サブユニットを連結させた tethered ribosome (Ribo-T)を用いた翻訳も行う。Ribo-T は Michael Jewett 博士のグループが Nature 誌に報告しており、我々は Jewett 博士から Ribo-T を発現するプラスミドの提供を受けて、Ribo-T による環状 mRNA の翻訳を行う予定である。
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