2017 Fiscal Year Annual Research Report
導電性高分子ナノファイバーを用いたフレキシブル熱電変換不織布の開発
Project/Area Number |
16H04200
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
下村 武史 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40292768)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
荻野 賢司 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10251589)
兼橋 真二 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 特任助教 (80553015)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 高分子構造・物性 / ナノ材料 / 有機導体 / エネルギー効率化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は導電性高分子ナノファイバーを用いたフレキシブルかつ軽量な熱電変換不織布の開発を目的とする。申請者らが研究してきたポリ(3-アルキルチオフェン)(P3AT)を原料とする太さ2×10nm2のP3ATナノファイバーは嵩高い疎な構造をしているため、厚みがあり断熱効果が高い不織布の作製が可能であり、細線効果と相まって、高い熱電変換効率を示すことが期待される。さらに、性能向上を目指 し、内部の空気を各層に閉じ込めることで、断熱性の高い構造を実現する。さらなる性能向上のため、キャリアの生成層と輸送層の役割分担の考え方を導入し、P3ATナノファイバー不織布とPEDOT:PSSの多重積層構造をもつ熱電変換デバイスを作製する。本研究により エネルギーハーベスティングを牽引する機能性不織布という新しいカテゴリーの創成を行う。 昨年度の研究においてドーピング条件の最適化により無次元性能指数が0.08と目標値の0.1に迫る値を実現した。特に、巨大なゼーベック係数が特異である点に着目し、紫外光電子分光を実施したが、HOMOの状態密度には特殊なプロファイルはみられず、ゼーベック係数の飛躍的な向上はバンド描像に由来するものではないとの結論を得た。そこで、空隙の多い内部構造が作り出す容量成分に着目し、インピーダンスの緩和についての調査を現在実施している。 引き続き民間との共同研究、共同研究につなげるための技術指導も展開しており、より蚕業応用も見据えて、熱電変換不織布の実用性を調査している。社会へのアピールを考慮して、電子オルゴールの駆動やLEDの発光など、目に見える形でのデモストレーションの実現も準備をしている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初、フレキシブルかつ軽量な熱電変換不織布の開発とP3ATナノファイバー不織布とPEDOT:PSSの多重積層構造をもつ熱電変換デバイスの作製を計画していたが、特に前者に関しては昨年度、巨大ゼーベック係数が観測されるなど著しい進展が見られた。そこで本年度も引き続きこの課題に関する調査に注力した。 昨年度に引き続き、各種パラメータの変更、素子が示す起電圧のみならず実際に負荷を結合して電流を測るなどの幅広い測定を実施したところ、全てにおいて矛盾ない結果を得たため、この巨大なゼーベック係数が構造体が示す真の特性であることを確認することができた。また、FE-SEMを用いたモルフォロジーの解析から、内部構造について把握することができた。ここまでは計画以上の進展と考えている。しかし、そのメカニズムの解明のために取り組んだ紫外光電子分光や、現在も取り組んでいるインピーダンス測定に関しては、まだ、メカニズムを明らかにしたとはいえない。この点に関しては引き続き調査を行っていく必用がある。 一方で、積層構造に関してはまだ着手できていないが、内部に空気を閉じ込めて高い断熱性を示すという点に関して同様の効果をもつことが期待される構造体の形成を民間企業との間で共同研究として進めることとなった。当初の想定以上に実用性の高い構造と考えることができるため、この点に関しては新たな進展といえる。以上から、総合的に判断して研究は概ね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
現時点ではゼーベック係数が飛躍的に向上するメカニズムがわかっていない。これまでもドーパント濃度依存性に関しては取り組んできたが、測定中にドーパントが多少抜ける傾向があり、精度に関して十分な測定ができていない問題があった。そのため、本年度はドーピング方法を変えて、ドーピング状態の安定を図り、精度を向上することを考えている。導電率とゼーベック係数の関係から、キャリアの伝導メカニズムが明らかとなれば、巨大ゼーベック係数の要因についての知見を得ることができると考えている。また同時にその温度依存についても調査する。高分子のようなキャリアの局在が強い系では熱電特性が狭い温度範囲でも顕著に温度に依存する傾向があるため、伝導機構の解明の観点から、詳細な温度依存性の測定を実施する。 また、マトリックスの種類や割合の変化に対する応答から、マトリックスの材質、ナノファイバーとの親和性、分子運動性、空孔導入量が与える影響の有無について調査する。これらの総合的な評価からメカニズムに迫ることを目指すこととする。 特性向上の観点では民間企業の力も借りて、空孔導入の方法についての調査も実施する。熱伝導の観点からは空孔導入量は大きい方が有利であり、なおかつ空孔の独立性が高い方が断熱性能が向上することは明らかであるため、これらの調査を実施し、実際に本材料の実用の可能性について、厳しく検討することを今後の方針とする。 同時に社会へのアピールを考慮して、電子オルゴールの駆動やLEDの発光など、目に見える形でのデモストレーションの実現を行っていくことも最終年として重要な方策とする。
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