2016 Fiscal Year Annual Research Report
光信号の実時間動的増幅を可能とするフォトリフラクティブ強誘電性液晶ブレンドの開発
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16H04224
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
佐々木 健夫 東京理科大学, 理学部第二部化学科, 教授 (80261501)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | フォトリフラクティブ効果 / 強誘電性液晶 / 光導電性化合物 / スメクチック液晶 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、フォトリフラクティブ効果を原理とする光信号増幅システムを実用化レベルに持っていくこと目標としている。そのために,優れたフォトリフラクティブ特性(高い回折効率,大きな利得定数,速い応答)を示す強誘電性液晶材料の設計指針を探求する。強誘電性液晶材料は様々な化合物からなる混合物であるので,それら各化合物の構造や組成の検討が重要である。さらに強誘電性液晶材料では配向状態の制御も重要な要素である。強誘電性液晶のフォトリフラクティブ効果に及ぼす材料的な要因は多岐にわたる。平成28年度は液晶材料の組成に重点を置き、 ①各種強誘電性液晶のフォトリフラクティブ特性の違い、②光導電性化合物による違い、③光導電性キラルドーパントを含む強誘電性液晶混合物の開発 の3項目について検討を行った。3種のフェニルピリミジンをメソゲンとするスメクチック液晶を様々な割合で混合し、モノドメイン液晶相を形成しやすい混合物の探索を行った。そして、ターチオフェンおよびクオーターチオフェンを光導電性部位として持つ光導電性キラルドーパントを合成した。これらをスメクチック液晶混合物に混合し、その強誘電性と光散乱を評価した。クオーターチオフェン系ドーパントは液晶に混ざり難い傾向があるが、分岐アルキル鎖を導入することで液晶への混合性を高めることができた。クオーターチオフェンを含む液晶混合物は長波長側での感度を有し、532nmでもフォトリフラクティブ2光波結合が見られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
フォトリフラクティブ効果(PR効果)は、光起電力効果と電気光学効果を併せ持つ系でのみ発現し、中でも強誘電性液晶を用いた材料では高速な電界応答を示す為に、実用化の点で有利である。フォトリフラクティブ強誘電性液晶ブレンドは、母体となる液晶に不斉部を有する光導電性化合物である光導電性キラルドーパントを添加することによって構成される。これまでに、フェニルピリミジン系ベース液晶にターチオフェン系光導電性キラルドーパントを添加した材料において高い性能を示した。これは、光導電性を示すターチオフェンの濃度増加と電気光学効果をもたらすキラル構造の濃度増加が起因していると予想される。本研究は光導電性とキラリティ―のどちらがより効果的にPR特性向上に働くか検討することを目的とした。そのために、ベース液晶と電荷捕捉剤の濃度を固定し、キラル構造を持つ光導電性化合物とアキラルな光導電性化合物を濃度比を変えながら混合することで、光導電性は一定でキラリティ―濃度の異なるサンプルを調製した。まず、これらの液晶物性を測定すると、キラリティ―濃度が液晶の電界応答の過程(応答モード)に強い影響を及ぼすことが明らかになった。強誘電性液晶の応答モードにはGoldstoneモードとSoftモードというものがある。今回、キラリティ―濃度の小さいサンプルではSoftモードが、キラリティ―濃度の大きいサンプルではGoldstoneモードが優勢に働いているということが明らかになった。その後、PR特性について二光波結合実験により調査した。すると、Softモードを示すサンプルにおいて高いPR特性を得られるということが初めて明らかになった。この結果から、Softモードを顕著に示す液晶材料である、電傾効果を示す液晶を用いた新たなPR液晶ブレンドの可能性が示された。
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Strategy for Future Research Activity |
28年度に得た知見を基に,デバイスターゲットの設定を検討する。検討項目は(1)各種強誘電性液晶のフォトリフラクティブ特性の違い、(2)光導電性化合物による違い、(3)光導電性キラルドーパントを含む強誘電性液晶混合物の開発である。(1),(2)は29年度以降も継続して行う。特に,使用波長領域を赤外線にまで広げることに注力する。赤外領域に高い感度を持つフォトリフラクティブ材料が実現できれば,安全のための検出技術だけでなく,医療の分野に必要な,皮膚の下にある腫瘍を非接触で3次元画像化する高速赤外線トモグラフィーが可能になる。さらに医療用センサーデバイスは高速であればあるほど,患者への負担が小さくなる。また,(3)は強誘電性液晶の無欠陥配向技術を応用することが必要である。この配向技術の修得および実際の液晶封入セルの作製とそれらのフォトリフラクティブ効果へ及ぼす影響の評価を,(1)(2)で得られる結果とあわせて検討していく。赤外域波長可変レーザーを用い,材料の様々な特性を探るとともに,様々なデバイスの実現可能性を探る。それぞれの用途に合った液晶素子を構築する必要があるので,ガラス加工機,液晶素子組立装置などが必要になる。
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