2017 Fiscal Year Annual Research Report
次世代水素利用技術の安全性確保のための高温水素環境における材料強度劣化現象の解明
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16H04237
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
久保田 祐信 九州大学, カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所, 教授 (50284534)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 水素 / 高温 / 材料力学・機械材料学 |
Outline of Annual Research Achievements |
SOFCや水素ガスタービンを使用した水素発電、SOECを使用した水素製造などに使用される機器には高温水素環境に曝される構造材料がある。クリープ寿命が水素中では顕著に短くなる報告があるものの、長時間データの取得やメカニズムの解明など、高温水素環境中の材料強度に関する研究が必要とされている。しかしながら、現在のところ、高温水素中で材料試験を実施できる研究機関はみあたらず、新たに実験技術を確立するところから研究開発が必要である。本研究は、高温水素中で材料試験を実施する装置と手順の確立、高温水素中の材料評価、実験結果からのさらなる研究課題抽出を目的とする。本年度は、第1年度に引き続き高温水素中材料試験機の開発に注力し、600℃の水素ガス中でSSRT試験ができることを確認し、常温から500℃までの水素中・Ar中でSUS304鋼のSSRT試験を実施した。600℃水素中で材料試験を実施できる技術が確立されたことは、本研究の非常に大きい成果である。以下に実験結果の詳細を記す。温度の増加とともに耐力、引張強さが低下した。水素の影響は耐力には見られなかった。常温の水素中では伸びの低下が著しいが、300℃の水素中では伸びの減少が軽微となり、500℃水素中ではさらに伸びの減少は少なくなった。300℃ではわずかに、500℃では顕著に応力―ひずみ曲線にセレーションが見られた。500℃では水素中のSS曲線がAr中のものよりわずかに上側に位置しており、水素の影響かどうか今後検討する。破面には水素の影響を顕著に認めることはできなかったが、き裂の発生などに対する水素の影響を明らかにする予定である。500℃のAr中でクリープ試験を実施し、長時間の運転に対しても安全に試験が行えることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
高温水素中の試験実施を可能にするまでに、いくつかの技術開発が必要となり、この開発に予定以上の長時間を要した。例えば、水素ガスの安全な加熱のためにとった方法が、炉の構成材と水素の反応を引き起こすなど、既存の技術では対応が困難であった事象が複数生じ、改めて高温水素環境の材料に対する攻撃性・反応性の高さを認識した。この対策として、新型の発熱体を設計した。年度当初の計画では水素中クリープ試験を開始している予定であったが、実際の進捗はその手前のAr中クリープ試験の実施までとなった。しかしながら、本研究の目的の一つは、高温水素中での材料試験技術を確立することであり、実行により明らかになった課題をクリアしながら、着実に目的達成に近づいている。600℃の水素を安全に取り扱う技術が確立されつつあるのは、本研究にとってだけでなく、今後の研究・産業界にとっても非常に意義のあることである。なお、現在までに蓄積された知見から、装置はさらに簡素化できる見込みがあるが、高圧ガスのエンジニアリング会社との会議によると、安全に対するコンプライアンスとの整合性が重要であり、実施には検討を深める必要があることを指摘された。
現在までに複数の企業から高温水素中の材料損傷に関する技術相談を受けた。このことは、実際に高温水素中の材料強度が製品としても懸念事項であることを裏付けており、本研究の社会的適合性が保証されたものと思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
高温水素中の材料試験技術はほぼ確立され、新年度は諄々と試験を実施し、データを蓄積し、結果を解析する。新年度には新規技術の開発として、画像解析を利用した高温水素中の変形の測定、水素の純度の検討を行う。前者が確立されると、高温水素中で破壊靱性試験なども可能となり、評価可能な項目が増加する。変位計測技術の開発を行いながら、前半で比較的短時間で終了するSSRTを実施し、変位計測技術が使用可能になった段階で高温水素中破壊靱性にも挑戦する。年度の後半は長時間を要する水素中クリープ試験を実施し、その間にSSRT、破壊靱性試験の試験片の観察等を実施する。
本年度までに試験方法の確立に時間を要し学会発表、論文投稿に至っていないが、新年度の早々には学会発表の申し込みを行う予定である。新年度中盤以降には論文投稿ができるように、着々と実験を進める。
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