2017 Fiscal Year Annual Research Report
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16H04267
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
矢野 猛 大阪大学, 工学研究科, 教授 (60200557)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 分子動力学 / 希薄気体力学 / 非線形音響学 / 超音波 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の実績は以下のとおりである。まず、基本となる平面進行超音波の伝播過程における非線形効果と非平衡効果の共存現象を定量的に明らかにするために、高精度の有限差分法を用いてBGK型ボルツマン方程式の初期値境界値問題の数値解析を行った。ここでは、平板の振動によって気体中に放射される有限振幅音波の数値解を求める際に、差分格子の移動にともなう数値誤差を排除することを目的として、平板の振動周期ごとに質量流束をゼロとする境界条件を独自に開発して導入した。ボルツマン方程式に基づく超音波の分散関係に関する研究は古くから多数なされているが、その多くは線形定在波を扱うものであり、弱非線形進行波に対する精密な分散関係は得られていなかった。この数値解析によって、進行波と定在波の分散関係の類似点と相違点を議論することができた。次に、気液界面の振動によって気体中に誘起される振動流成分が遠方で超音波に発展する過程を、BGK型ボルツマン方程式に対する数値解析によって明らかにした。気液界面近傍に振動クヌーセン層が形成される問題は、これまで精密な解析がなされていなかったが、今回の我々の解析の結果、振動クヌーセン層が、よく知られている定常クヌーセン層と異なる構造をもつことが示唆されている。これらの成果によって、気液界面近傍の非定常な非平衡領域に対する一層精密な理解を得ることが、非線形非平衡音響学の基盤形成にとって本質的であることが浮き彫りとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの進捗状況は以下のとおりである。非平衡かつ非線形な超音波の気体中における伝播過程を取り扱う非線形非平衡音響学の学術基盤を確立するために、(1) 希薄気体中の超音波の非線形時空間発展と分散関係の精密な定式化に取り組むこと、(2) 境界近傍で時間的に振動するクヌーセン層の特徴づけ、および、そこから超音波が誘起される過程の数値的実証などを行なうことができた。この2点は、非平衡かつ非線形の音響学の基盤形成において最も基本的かつ重要な問題であり、これらの成果を得ることができたおかげで、現在進展中の非定常分子動力学計算のデータ解析に不可欠な知見を集積することができた。これによって、次年度に続く本研究課題の一層の発展を確実なものとすることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策は以下のとおりである。非線形非平衡音響学の基盤確立に向けて、(1) 希薄気体中の集束音波の伝播過程のボルツマン方程式に基づく数値解析と、(2) 気液界面近傍の振動型の非平衡領域と遠方における音波の誘起に対する分子動力学解析という2つの解析を進展させる。(1)の集束超音波に対する高精度の数値計算を実施するための準備、および、(2)の分子動力学計算の準備は整っている。前者については空間多次元問題であることによる大きな計算負荷、後者についてはそもそも大規模計算であることによる多大な計算負荷が克服すべき課題であったが、両者について課題解決の見通しは確保できた。また、平成29年度までに得られた知見によって、計画立案当初よりも一層深く、非線形非平衡音響学の基盤形成のための物理的本質の解明に集中的に取り組む準備が整っている。
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Research Products
(2 results)