2017 Fiscal Year Annual Research Report
河川堤防性能の長期担保に向けて:土質・気候に応じた境界・内部物理過程の解明
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16H04405
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
西村 聡 北海道大学, 工学研究院, 准教授 (70470127)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
林 宏親 国立研究開発法人土木研究所, 土木研究所(寒地土木研究所), 統括主任研究員 (00414178)
山添 誠隆 秋田工業高等専門学校, その他部局等, 准教授 (60760238)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 堤防 / 防災 / 盛土 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は様々な地理・気候条件下にある堤防の原位置観測・調査を開始・継続することでその水理・力学応答に関する実証的データを取得するとともに、室内試験による原位置挙動解釈の裏付けや、モデル化・数値解析による再現を行い、いずれにおいても相応の進捗を見ることができた。原位置調査については、平成28年度までに開始した北海道長沼町・北広島市・タイ国バンコク市の堤防に加え、秋田県八郎潟市・北海道常呂町での堤防の調査を開始した。八郎潟市では当該年度に二度の豪雨が発生し、それらに対する水理応答データを取得することに成功した。また、常呂町の常呂川堤防は平成28年度に越水・間隙空気湧出を経験しながらも崩壊を免れた特徴的なサイトを選択し、観測を続けることで当時の挙動を遡って推定することを目指すものである。これらのサイトで観測を開始するにあたり、テンシオメーターやロガーを廉価に自作する手法を開発し、多点データ取得の方法を考案した。寒冷な気候による機器の不具合などの問題も生じたが、強降雨に対する水理応答に関する貴重な知見が得られている。その他、既存の観測点からは春期の融雪とその浸透に関するデータを取得することに成功した。 室内試験に関しては、原位置調査の一環としてのルーチン試験(基礎的な土質試験から保水性試験まで)を実施して後述の数値解析の入力を得たほか、さらに高度なモデル化を目指すための新たな試験法開発を試みた。その結果、凍結土の高度な熱・水・力学連成モデル化のために必要なデータを得る新しい三軸圧縮試験手法や、大変形を伴う土質の透水係数異方性を評価する試験法などを開発し、その有用性の実証を進めることができた。モデル化・数値解析については、不飽和浸透流解析の堤防浸透問題への実装に関して、土木学会堤防研究小委員会を中心に議論や一斉解析を進め、特に境界条件が出力に与える影響について詳細な知見を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は堤防の水理・物理過程を理解するために、原位置観測・調査を基軸に置きながら、室内試験や数値解析を適用・開発してその解釈を助けるアプローチを当初より採用している。基軸となる原位置観測に関しては予定以上の進捗が見られ、今後の作業の元となるデータの取得が進んでいる。新しく開発した廉価な観測システムは動作が不安定なことも多く、観測が中断されることも多くあり、遠隔地での対応は遅れざるを得ない場合もあるが、研究分担者をはじめとする数多くの協力者の尽力により対応することができている。室内試験に関しては、北海道大学の土木工学研究棟の改築により夏期の中断があったものの、事前の周到な計画によりその影響を最低限に抑えることができ、こちらも概ね順調に進んだ。数値解析については、既存の不飽和浸透流解析の堤防水理応答予測への適用に関して知見をとりまとめ、気液連成解析などより高度な解析手法の適用性を検討する予定であったが、とりまとめにはやや時間がかかっており、両者がオーバーラップする形で現在は作業を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度にあたる平成30年度は、これまでの作業を継続・発展させ、堤防の水理・物理過程について特に重要な事項を抽出し、それらに関する一般的な観察や水理・力学的理論および解析予測法についてとりまとめる。特に以下の事項について有用な知見が得られており、これらについて重点的にとりまとめや情報発信を行う。1)強降雨時の堤防の浸透過程について:既存の単相(液相)不飽和浸透流解析は、強降雨時の浸透を過大に評価しうることが観測データから示されてきた。そこで気液連成不飽和浸透流解析よる予測と体系的な比較を行うことにより、より適切な解析方法の選択を可能にするガイドラインを示す。2)融雪の浸透過程とそのモデル化について:融雪についてはいくらかの経験的手法が提案されているが、それらは大きく異なる融雪速度を与えるうえ、法面への浸透に適したモデルを選択するための判断基準が存在しない。そこで、北海道での複数サイトでの観測データに基づき、融雪モデルの適用性検討結果を示す。3)新築堤防と既存堤防の表層強度の比較と経年・季節変化の事例とその土質力学的解釈:堤防では築堤時に品質管理の一環として強度評価が行われることが多いが、その後の劣化に関する貴重なデータを示し、それがどのような条件でどのようなメカニズムにより生じるのか、理論を提示する。これらの知見はそれぞれ研究発表会や学術論文で発表するとともに、国土交通省の委員会や土木学会堤防研究小委員会でのレポートを通して一般に公開していく。
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