2016 Fiscal Year Annual Research Report
古代ギリシア建築の意匠と構造に関する研究-カリア地方の磨崖墓の意匠と構造との関係
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16H04482
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Research Institution | Muroran Institute of Technology |
Principal Investigator |
武田 明純 室蘭工業大学, 工学研究科, 助教 (00344549)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
伊藤 重剛 熊本大学, 大学院先端科学研究部(工), 名誉教授 (50159878)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 古代ギリシア / ヘレニズム期 / 墓 / 磨崖墓 / 構造特性 |
Outline of Annual Research Achievements |
ヘレニズム期の墓には、墓以外の古代ギリシア建築には見られない特殊な建築形態を持つものがある。このような墓の建造においては、古代地中海世界の建築技術者が構造をどのように捉えて建造したのかが大変興味深い。そこで、H28年度の研究では、古代人の構造に対する認識を明らかにすることを最終目的とし、カリアの岩壁を彫りこんで造られた墓(以下、磨崖墓)に着目し、磨崖墓の「掘り出し方の違い」や「墓室の規模や形状の違い」が磨崖墓の構造特性に与える影響を明らかにすることを目的に研究を行った(なお、墓の掘り出し方の違いとは、磨崖墓は岩壁を掘り込んで作成するが、その中には、岩壁から完全に切り離して丸彫りしたものと、ファサードのみを岩壁に施工するものがある。本研究では、前者を独立型、後者をファサード型と呼んでいる)。 磨崖墓は、独立型もファサード型も、細かな装飾や規模、プロポーションの違いはあるものの、その多くはイン・アンティス様式を採用している。そこで、解析結果がより多くの磨崖墓に適用できることと、独立型の磨崖墓とファサード型の磨崖墓の比較を可能にするため、まずは独立型の各磨崖墓の各部寸法の中央値付近に位置する磨崖墓を解析モデルのモデルとして選択することとした。そして、この独立型の磨崖墓の周囲通路を埋めたものをファサード型の磨崖墓の解析モデルのモデルとすることとした。この解析モデルを基準モデルと位置づけて、磨崖墓の掘り出し方や墓室の規模や形状を変えながら構造解析を行った結果、ファサード型の磨崖墓では、「通常、墓室が小さくなるほど、墓室内の最大主応力は減少するが、墓室の奥行きのみを短くした場合には、かえって墓室の最大主応力が応化する」ということを明らかにした。なお、この理由は「ファサードの施工によって生じる応力と、墓室の施工によって生じる応力の均衡が崩れたため」だと推察された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
磨崖墓は、岩壁を掘り込んで作成される墓であり、簡単に言えば、トンネルのような構造をしている。従って、通常、墓室を大きく掘り込めば、応力解放によって応力は増加することが予想される。しかし、上記の研究概要に記した通り、本研究により、ファサード型の磨崖墓では、ファサードの形状と墓室規模や形状のあり方によっては、墓室を小さくしてしまうとかえって応力が増加してしまうことがわかった。このような成果は、研究計画を立案した際に期待した成果そのものだといえるため、本研究の進捗状況は順調だといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
研究実績の概要に記したとおり、本研究により、ファサード型の磨崖墓では、ファサードの形状と墓室規模や形状のあり方によっては、墓室を小さくしてはならないことがわかった。そして、その理由を「ファサードの施工によって生じる応力と、墓室の施工によって生じる応力の均衡が崩れたため」だと推察した。そこで、H29年度の研究では、ファサードの「規模」と「墓室の規模や形状」との関係が、磨崖墓の構造特性に与える影響について分析を行う予定である。
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