2016 Fiscal Year Annual Research Report
Conservation method of wooden churches in Ukraine -Conparative study of log house building conservation in Japan and East Europe
Project/Area Number |
16H04483
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
上北 恭史 筑波大学, 芸術系, 教授 (00232736)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤田 香織 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (20322349)
稲葉 信子 筑波大学, 芸術系, 教授 (20356273)
清水 重敦 京都工芸繊維大学, デザイン・建築学系, 教授 (40321624)
花里 利一 三重大学, 工学研究科, 教授 (60134285)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ウクライナ / 木造教会堂 / キリスト教正教 / ロシア / キジ島 / 顕栄聖堂 / 修理 / リヴィウ |
Outline of Annual Research Achievements |
東ヨーロッパの民族の交差点であったウクライナには、正教によって作られてきた校倉造の木造教会堂が数多く残る。ウクライナ西方のカルパティア地方は民族的迫害を乗り越えて東方カトリック教会の貴重な木造教会堂群が現存するが、木造建造物修理の専門家の不足、保存体制の不備のために十分に保護の体制を構築できていない。ロシアのキジ島に保存されている顕栄聖堂は建造物の完全性を維持するためにジャッキアップして底部から解体され、材料を外して補修されている。日本は大正2年に正倉院正倉を全面解体修理したように、伝統的修理技術に依拠している。まだ修理方法が確立されていないウクライナの木造教会堂は、どのような修理体制が望ましいのだろうか。本研究は、ウクライナと日本の保存専門家を交えて、校倉木造教会堂の保存手法を考えることを目的として進められた。 本研究は、ウクライナの西部に広がるカルパティア山脈の近辺に残る木造教会堂を中心に調査を進めた。リヴィウから50キロほどの郊外にあるロニ村には国指定重要文化財の木造教会堂が残るが、屋根が落ちて損壊している。この教会堂の修理についてリヴィウ政府の担当部局と修理設計技術者から情報収集を行った。さらに世界遺産のポテリッチにある聖神降臨聖堂について調査を行い、地すべりによって引き起こされていると考えられる教会堂躯体の損傷について把握した。 ウクライナ周辺国にも正教の木造教会堂が保存されているが、その中でもロシアのキジ島の博物館は最も保存の体制を整えていることから、キジ島博物館で調査を行った。世界遺産の構成資産である顕栄聖堂は現在修理中のため、修理方法、修理の体制について調査を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ウクライナでは木造教会堂の歴史の専門家で修理にも携わるリヴィウ科学技術大学のミコラ・ベイツ教授とともに調査を行った。ロニ村の木造教会堂など国指定重要文化財の一部は国政府の財政難のために、たとえ教会堂が損壊していても修理が行われないことがある。これらの教会堂は地方政府であるリヴィウ県政府によって修理が進められることになった。このように地方にある文化財の保存に対して地方政府の役割は大きいと言える(地方政府の文化遺産担当部局へのインタビュー及びロニ村教会堂の修理設計を行った修理会社へのインタビューは平成28年度にはスケジュールの都合から、平成29年度に延期し、平成29年度に実施することができた)。保存修理計画は保存修理会社によって作成されるが、リヴィウ政府の文化遺産保存委員会によって検討される。修理許可がおりたら保存修理会社によって修理が行われるが、材料の取替などは現場で保存修理会社によって行われる。保存修理会社が抱える問題は熟練した技術者はおらず、ウクライナ独立後から始められた木造教会堂修理の経験に基づいて保存修理を行わなければならないことである。ロニ村教会堂は本研究調査組織によって立地斜面の地すべりが確認されたが、実際の保存修理にあたっては保存修理会社による地すべりの調査や対策は行われていなかった。また2017年夏時点で修理が開始されたが、冬期は修理をやめ春になってから修理を再開するという予定で、修理期間は半年という短い期間で行われることになっている。 周辺国が行っている木造教会堂修理事例の調査として、ロシアのキジ島博物館の調査を実施した。キジ島では世界遺産の構成資産である顕栄聖堂が修理中であり、博物館による修理方法について調査を行った。顕栄聖堂は全解体をせずに全体をジャッキアップし、同大部から部分解体をして補修する方法を採用していた。
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Strategy for Future Research Activity |
ウクライナのリヴィウ近郊に残る木造教会堂の調査と周辺国で行われている木造教会堂の修理方法について引き続き調査を行う。またリヴィウ市内の建築博物館には木造教会堂を始め数多くの歴史的な木造建築物が保存されており、博物館における修理方法および材料の調達方法などについて調査を行う。 ウクライナの世界遺産であるポテリッチの聖神降臨聖堂はリヴィウ科学技術大学の専門家によって修理計画が策定されており、その設計方針や修理計画について把握する。また火災を起こしたクハイフの木造教会堂なども修理の状況を確認する。 リヴィウの建築博物館にはポーランドの支援を受けて修理された木造教会堂が残っている。また隣国ポーランド東部にも木造教会堂が数多く残されていることから、ポーランドにおける木造教会堂の修理の状況について調査を行う。 またウクライナのリヴィウ科学技術大学の専門家を日本に招聘し、日本の歴史的木造建造物の修理方法や日本に残る校倉造木造建造物の保存状態について調査を行い、木造建造物の価値の保存や真正性、完全性などの視点をもとに意見交換を行う。
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