2017 Fiscal Year Annual Research Report
Conservation method of wooden churches in Ukraine -Conparative study of log house building conservation in Japan and East Europe
Project/Area Number |
16H04483
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
上北 恭史 筑波大学, 芸術系, 教授 (00232736)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤田 香織 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (20322349)
稲葉 信子 筑波大学, 芸術系, 教授 (20356273)
清水 重敦 京都工芸繊維大学, デザイン・建築学系, 教授 (40321624)
花里 利一 三重大学, 工学研究科, 教授 (60134285)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 木造教会堂 / ウクライナ / ポーランド / 正教 / 校倉造 / 保存 / リヴィウ / 修理 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度に調査を行ったウクライナのリヴィウ近郊のロニ村教会堂の修理は2017年夏に開始された。2017年冬までの3ヶ月で修理を終える計画であったが、冬期までには終わらず翌春に工事を再開するという。日本の木造建造物の修理事業と比べて驚くほど早く修理を行うことから、材料の繕いなどを行わず取替剤で対応していくものと思われる。ポテリッチに残る世界遺産の聖神降臨聖堂の修理設計は、リヴィウ科学技術大学の専門家によって作成されている。地すべりを起こしている斜面に教会堂が建っていることから、教会堂の躯体に変形を起こしており、内部に教会堂を支えるための架構が入れられている。 リヴィウ市内には各地の木造建造物を移築、収集している建築博物館があり、修理の専門家を雇用して木造建築物の補修・維持を行っている。そこでは伝統的道具や屋根葺きの伝統的技法を収集し、専門家によって伝統技術の復活・継承を試みている。屋根ふき材の茅なども生息場所を把握しており職員によって採取されている。 近隣国の木造教会堂の修理事例の調査としてポーランド東部に残る木造教会堂の調査を実施した。現在のウクライナとの国境が確定する前にはウクライナ民族が居住しており、多くの木造教会堂が建設されたという。ポーランドでは木造教会堂の修理を多く手がける民間修理会社にインタビューを行った。移築された木造教会堂の修理にはポーランドの建築基準法に従ってベタ基礎を打つ。小山や斜面に建つことが多い木造教会堂にとって地滑りを防ぐことが保存にとって大きな効果を上げるという。 またウクライナ、ポーランドの専門家を京都、奈良、伊勢に招聘し、日本の木造建造物の修理方法、校倉造の歴史的建造物の保存状況について見学とワークショップを実施した。これらの専門的知見の交流をもとに、ウクライナの木造教会堂の保存のための条件について議論を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
木造教会堂の劣化で最も頻繁に見られるのは雨漏りによる木材の腐れである。屋根の補修が定期的に行われていれば比較的長持ちすると思われるが、地盤の沈下や土台の腐れなどによって建物の躯体が変形すると雨漏りを引き起こし劣化が進むと考えられる。ウクライナの木造教会堂の土台を修理するときは、テコの原理の伝統的方法を用いて人力で建物の一部を持ち上げる。地中を掘りこみ石で固めたり、コンクリートの地中梁を入れることもあるが、深いところまで補強をするわけではない。ポーランドでは冬期に地下1メートルほどの深さまで凍結することから、コンクリートの基礎を地下1メートル以上掘り下げて敷設するという。木造教会堂の劣化の原因に地すべりがあると考え、地盤を補強するという方法は科学的根拠に従った判断と言える。ただしポーランドでも移築されておらず建設当初の場所に建つ木造教会堂の場合、その場所にも歴史的価値があると考え、地中に手を加えないという。このように寒冷地域に残る木造教会堂の抱える問題点を把握できたことは大きな収穫であったといえる。 またウクライナ国政府の財政事情により地方の文化遺産を十分に保存する措置ができない状況が明らかになった。地方に残る文化遺産を保存していくためには、リヴィウ政府など地方政府の役割が大きい。リヴィウ政府の文化遺産保存委員会は建築家や大学の専門家によって構成されているため、文化遺産の保存に明るい建築家や木造建造物の保存修理の知見を持つ専門家が必要であり、このような専門家の育成が将来の保存事業に必要となってくる。
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Strategy for Future Research Activity |
ウクライナのリヴィウ近郊の木造教会堂の修理調査を通して、伝統的な技術を持つ職人はほとんどいなくなっていることが明らかになってきた。カルパティア山脈の南部はルーマニアと国境を接する場所で、その周辺の村にはまだ木造文化が残っているという。平成30年はリヴィウ郊外のロニ村教会堂やポテリッチの聖神降臨聖堂の追加調査を行うとともに、カルパティア山脈沿いに残るKRIVORIVNYA村など木造文化が残る場所で伝統的建築技術の調査を行う。 また周辺国の木造教会堂の調査として、カルパティア山脈の南部と接するルーマニアの木造教会堂を対象として調査を行う。 最終年度にはリヴィウ科学技術大学の専門家と木造教会堂保存のための意見交換を行い、研究成果の整理をするとともに成果公表について検討する。
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