2016 Fiscal Year Annual Research Report
高温超伝導線材における高ひずみ特性の観点から最適な人工ピンニングセンターの探索
Project/Area Number |
16H04512
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Research Institution | High Energy Accelerator Research Organization |
Principal Investigator |
菅野 未知央 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 超伝導低温工学センター, 研究機関講師 (30402960)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
吉田 隆 名古屋大学, 工学研究科, 教授 (20314049)
菖蒲 敬久 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 物質科学研究センター, サブリーダー (90425562)
町屋 修太郎 大同大学, 工学部, 准教授 (40377841)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 高温超伝導体 / 人工ピンニング / 臨界電流のひずみ効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
人工ピンニングセンター導入したSmBCO線材は、低温、高磁場で高臨界電流密度が実現されている。我々は、高磁場磁石応用を想定して耐ひずみ特性の観点からも望ましい人工ピンを探索することを目的とした電磁機械特性評価を行っている。本年度は、高臨界電流密度化の観点からは最適なBaHfO3をナノロッドとして2vol%添加した低温成膜法で成膜したSmBCO薄膜について、自己磁場下で臨界電流―ひずみ測定を実施した。ヘリウムガスフロークライオスタットにより20~83 Kの範囲で温度調整し、ベリリウム銅に接着した線材に4点曲げ法により引張または圧縮のひずみを負荷した。人工ピン導入の有無による差異を比較するため、無添加とBaHfO3添加のSmBCO薄膜について比較したところ、臨界電流のひずみ効果を特徴付けるピークひずみ(臨界電流が最大となる負荷ひずみ)の温度依存性に違いが見られた。無添加では、過去に報告されているように、低温ほどピークひずみが圧縮側に移動した。一方、BaHfO3添加薄膜ではピークひずみが温度によらずほぼ一定となった。 人工ピン導入による超伝導体薄膜内部のひずみ状態変化を観察するため、SPring-8において放射光を利用した室温引張ひずみ測定を実施した。その結果、人工ピンの有無による内部ひずみの顕著な違いはみられなかった。このことから、人工ピンを添加したことによる結晶粒内のひずみ状態に与える影響は小さいことが明らかになった。以上の結果から、粒内に加えて粒界の輸送特性も考慮に入れる必要性があることが明らかになった。 また、次年度以降に測定を実施する4 K、15 Tの磁場印加状態で薄膜超伝導線材の臨界電流―ひずみ測定を実施するための装置を設計、製作した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、人工ピンニングセンターを導入したSmBCO線材について、従来は77 Kのみであった臨界電流のひずみ依存性の測定を広い温度範囲で測定することに成功した。引張と圧縮の両方のひずみ状態での測定を実施するため4点曲げ法を採用し、ベリリウム銅基板に薄膜線材を固定することを試みた。当初はハンダ付けによる固定を想定していたが、加温により臨界電流が低下することが明らかになり、急遽接着剤固定に変更した。接着剤の塗布、キュア条件を最適化することで臨界電流に悪影響を与えることなく、±0.4%程度のひずみを負荷することに成功した。これにより、ピークひずみの温度依存性に与える人工ピンニングセンターの効果について始めてデータを取得することに成功した。 SPring-8における放射光引張ひずみ測定についても、申請者らが開発した小型引張試験機を用いて種々の人工ピン入りSmBCO線材の内部ひずみ測定を行うことができた。 磁場印加状態、液体ヘリウム中で臨界電流を測定する装置を新たに導入した。申請者が所有する15 T磁石はもちろん、将来的により高磁場での測定を可能にするために外部研究機関の18 T磁石にも挿入可能な設計とした。また、電流容量は同種の試験装置としては高い1 kAとした。これらの仕様に加え、将来的に磁場印加角度の変更も可能な自由度を持たせた装置設計を行い、それに基づく製作までを完了した。 以上の成果から、研究は概ね順調に進行しているものと判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、より系統的な測定を実施する目的で、磁場印加状態での臨界電流ひずみ特性の測定を開始する。また、ひずみ効果を支配する微視的要因を解明するために、単結晶薄膜、バイクリスタル薄膜での測定を合わせて実施する。これらに加えて、低温放射光ひずみ測定用の冷凍機クライオスタットを導入し、次年度以降の測定の準備も進める。 15 T以下の磁場下での測定:昨年度に導入した装置を用いて、15 Tソレノイド磁石のボア中、4.2 Kで臨界電流ー引張ひずみ測定を実施する。まず、装置のコミッショニングのため、1 kAまでの通電や低温でのひずみ負荷について確認する。測定試料は、人工ピンとしてBaHfO3(BHO)を添加したSmBCO薄膜および添加なしのSmBCO薄膜とし、人工ピンの磁場中ひずみ特性への影響を明らかにする。 15 T以上での磁場下での測定:高磁場磁石への適用性を議論するため、15 ~ 18 Tのより高い磁場、4.2 Kで臨界電流ー引張ひずみ特性を行う。測定は、東北大学金属材料研究所の18 Tソレノイド磁石において実施する。 磁場中臨界電流-4点曲げ試験:磁場印加状態で実施するため、東北大学金属材料研究所の無冷媒10 Tマグネットを用いた測定を実施する。この測定から、温度と磁場の両方を変化させたひずみ効果の全体像を明らかにすることを目指す。 単結晶、バイクリスタル薄膜の臨界電流ー4点曲げひずみ測定:上記の線材を対象にした測定では、粒界、粒内、人工ピンの影響が重畳した状態でのひずみ効果の議論しかできない。これらを分離してそれぞれの寄与を明らかにするために、単結晶基板上に成膜したSmBCO単結晶膜について臨界電流の4点曲げ測定を行う。この測定に成功した場合は、バイクリスタル基板上にSmBCOを成膜し、粒界のみの影響を明らかにすることを目指す。
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