2017 Fiscal Year Annual Research Report
構造最適化による錯体水素化物の高速イオン伝導機能の発展
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16H04513
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
松尾 元彰 関西学院大学, 理工学部, 准教授 (20509038)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 水素化物 / イオン伝導 |
Outline of Annual Research Achievements |
リチウムイオン電池のさらなる高エネルギー密度化のために、従来の有機溶媒系電解液に替わり得る電気化学的安定性に優れた非溶媒系の固体電解質の開発が強く望まれている。LiBH4を始めとする無機水素化物は、イオン伝導特性と電気化学的安定性に優れるため、固体電解質として利用できる可能性が高い。 クロソ型錯イオンBnHnを有するナトリウム系錯体水素化物のNa2B10H10とNa2B12H12は、どちらも単斜晶から立方晶への構造相転移に伴って高速ナトリウムイオン伝導を示すため、次世代蓄電池として注目される全固体ナトリウム二次電池を実現するための固体電解質としての応用が期待される。しかし、構造相転移温度以下ではナトリウムイオン伝導率が低く、構造相転移温度の低減が課題の一つとして挙げられていた。 2017年度は、クロソ型錯イオンB12H12と他の錯イオンとを共存させることにより、Na2B12H12の構造相転移温度を低下させることができないか検討した。Na2B12H12と他のナトリウム系錯体水素化物とをボールミリングを用いて混合した後、水素雰囲気中で熱処理を施すことによって試料を合成した。粉末X線回折、ラマン分光、示差熱分析、交流インピーダンス法を用いて合成試料の構造、熱安定性、イオン伝導特性を系統的に評価した。 粉末X線回折測定においていずれの混合比においてもNa2B12H12およびその他の錯体水素化物とは異なる回折ピークのみが観測された。また、ラマンスペクトルにおいて[B12H12]2-および他の錯イオンに起因する振動モードが観測された。これらの結果から、価数・水素配位数・イオン半径の異なる2種類の錯イオンが共存した新規錯体水素化物が生成したことが示唆された。示差熱分析において200℃付近で構造相転位を示唆する吸熱ピークが観測された。室温でのナトリウムイオン伝導率が4桁増大した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実験計画では、これまでに特に優れたイオン伝導特性が報告されている錯体水素化物での高速イオン伝導を示す要因を系統的に明らかにし、この機構解明から得られる知見を基にして構造最適化を施し、リチウムおよびナトリウムイオン伝導特性を向上させることを目標に掲げた。 クロソ型錯イオンBnHnを有するナトリウム系錯体水素化物では、錯イオンの高速再配向回転がナトリウムイオン伝導を促進する可能性が示唆されており、昨年実施した研究からクロソ型錯イオン[B10H10]2-と他の錯イオンとを共存させることで室温でのナトリウムイオン伝導率が3桁増大することを明らかにした。同様の傾向が[B12H12]2-錯イオンに対しても確認され、材料設計指針がより確かなものとなった。総合的に鑑みて、概ね計画通りに研究を進めることができている。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年度は昨年度に引き続きNa2B12H12系対象として以下の研究に取り組む。 ・ナトリウムイオン伝導率が最も高くなるように混合する他のナトリウム系錯体水素化物の比率を最適化する。 ・高輝度X線回折、中性子回折、ラマン分光を用いて水素雰囲気および真空下で昇温しながらその場解析を実施し、結晶構造を解明する。 ・示差熱分析、示差走査熱量分析により、構造相転移温度、融点、水素放出温度を明らかにする。
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