2016 Fiscal Year Annual Research Report
原発内汚染水からの放射性ストロンチウム除去用チタン化合物担持繊維の作製と高性能化
Project/Area Number |
16H04550
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
斎藤 恭一 千葉大学, 大学院工学研究科, 教授 (90158915)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
浅井 志保 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力基礎工学研究センター, 研究副主幹 (10370339)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 福島第一原子力発電所 / 汚染水 / 放射性ストロンチウム / 吸着繊維 / チタン酸ナトリウム / ペルオキソチタン錯体 / 放射線グラフト重合法 / アニオン交換繊維 |
Outline of Annual Research Achievements |
東京電力福島第一原子力発電所1~4号機取水口前の海水エリアから放射性ストロンチウムを除去するためには,海水への直接投入,回収,および保管を簡便に実施できる吸着繊維が適している。本研究の目的は,原発内汚染水からのストロンチウム(Sr)除去のために高性能な吸着繊維を実用化することである。汚染水中には,もともと非放射性Srが多量に含まれている。例えば,汚染海水には非放射性Srが8 mg/L溶けていて,そこに極わずかな放射性Srが加わり混ざっている。どんな吸着材でも放射性Srと非放射性Srとを識別できないので,極低濃度の放射性Srを除去するには,それに比べてずっと高濃度な非放射性Srをもろとも除去する必要がある。したがって,吸着繊維には高いSr吸着容量が要求される。そこで,本研究では,Srに対して高い吸着選択性を示すチタン酸ナトリウム(ST)の繊維への担持量を高めるために,アニオン交換繊維へのチタンアニオン種の吸着量を最大化した。まず,放射線グラフト重合法によって,市販のナイロン6繊維からアニオン交換繊維を作製した。つぎに,この繊維に,チタンアニオン種としてペルオキソチタン錯体アニオン(Ti2O5(OH)3-)を採用し,イオン交換吸着させた。さらに,水酸化ナトリウム水溶液に浸して,繊維に付与したグラフト高分子鎖内で沈殿反応を起こして析出するST微粒子を繊維に担持した。 グラフト高分子鎖内に析出担持されたSTの組成を調べるために,1 M硝酸に吸着繊維を浸して担持物を全溶解させた。得られた溶解液中のチタンの量から担持物の組成式を決めたところ,その組成式は,溶液中での沈殿反応で得られた組成式とほぼ一致した。このことから,繊維に付与されたグラフト高分子鎖内でも,溶液中と同様にSTの沈殿を析出生成できることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究では,市販のナイロン6繊維を出発材料に採用して,放射線グラフト重合法を適用し,アニオン交換繊維を作製後,その繊維を,ペルオキソチタン錯体(POTC)アニオンを含む溶液に繰り返し浸漬させるという工夫を考案した。これにより,海水中でストロンチウムを選択的に吸着できるチタン酸ナトリウム(ST)の担持量を増加させることに成功した。また,イオン交換吸着されたPOTCアニオンが加水分解によって非晶質の含水酸化チタンとして縮合・凝集し,STグラフト鎖と物理的に絡み合って固定されるために,アニオン交換基が空き,そこに新たにPOTCアニオンがイオン交換吸着する現象を繰り返し起こせる。その後,NaOH水溶液への浸漬によってSTへ転化・析出し,繊維にSTが高密度に担持されることが示唆された. ST担持率を29%までに増加させたST繊維の人工海水中でのストロンチウム飽和吸着容量は2.9 mg-Sr/gであった。これは市販の粒子状吸着材SrTreatのそれ(3.4 mg-Sr/g)の85%に相当した。 東電福島第一原発の汚染水の現場への吸着繊維の投入を想定して,ベンチャー企業(㈱環境浄化研究所,本社:群馬県高崎市)へ吸着繊維の作製経路を提示し,大量製造の試験を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
汚染水中の放射性ストロンチウムへの高い吸着選択性を示し,さらに,現場での投入や回収の作業を簡便に行えることに着目して,これまで,繊維状吸着材としてチタン酸ナトリウム(ST)担持繊維を作製してきた。得られたST繊維は海水中でも高いSr吸着容量を示したけれども,16万トンの汚染海水への吸着繊維の投入量をさらに減らすためには,吸着繊維にはさらなる性能向上が必要である。そこで,今後(次年度以降)はチタンケイ酸ナトリウムに着目する。チタンケイ酸ナトリウムの結晶は酸化チタンと酸化ケイ素によるトンネル構造を有していて,結晶内のトンネルに存在するナトリウムイオンとのイオン交換によってSrイオンが捕捉される。STに比較して,チタンケイ酸ナトリウムはSrに対して約4倍高い吸着選択性を示すことが,溶液から作製したチタンケイ酸ナトリウム粒子を使って報告されている。そこで,今後,チタンケイ酸ナトリウムを繊維に高密度に担持する方策を実施する。チタンとケイ素という2つの元素を含む無機化合物沈殿をグラフト高分子鎖内で作製するのは容易ではないが,作製経路や作製条件に工夫を施して成功させたい。
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