2017 Fiscal Year Annual Research Report
固体表面と吸着分子館の相互作用「吸着振動」の直接観測
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16H04564
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
野村 淳子 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 准教授 (60234936)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 吸着 / 赤外分光 / 固体表面 / 触媒機能 |
Outline of Annual Research Achievements |
最適化したIRセルおよびin-situ測定用閉鎖循環系を用いて様々な条件下での測定を行った。これまではイオン交換型ゼオライトディスクを大気下で観測し、カチオンとゼオライト格子酸素との相互作用に起因する、「カチオン振動」の観測を行ってきたが、同じ試料を加熱真空排気し、共存する吸着水を除去することで、ピークが明確に現れることがわかった。一方で、ゼオライト試料も自作し直し、良好なサンプルを準備した。ゼオライト触媒の活性点である酸性水酸基を有するプロトン体は、合成で得られるNa型をアンモニウム体にイオン交換したのちに、アンモニアを加熱による除去して得られる。今回は、金属カチオンに止まらず、アンモニウムイオン(NH4+)とゼオライト格子酸素とのカチオン振動を観測することに成功し、その振動が加熱真空排気(アンモニア脱離)に伴いプロトン型に変化する際に消失することも確認できた。さらにプロトン型ゼオライトに室温でアンモニアを徐々に吸着させることで、アンモニウムイオンのカチオン振動が吸着量に応じて復活する様子も観測した。[Na+ → NH4+ → H → NH4+](プロトン体の場合、OH間の共有結合に由来する振動が3600 cm-1付近に現れる。) 吸着実験ではアンモニア以外にピリジンも取り扱った。プロトン型ゼオライトにピリジンを吸着させるとピリジニウムカチオン振動が、アンモニウムのものより低波数に観測され、振動波数が質量に依存していることを確かめた。ただし、分子全体が帯電しているアンモニウムイオンと他の有機分子とは直接比較することはできないので、現在ピリジン誘導体を用いて検討を行っている。 配位結合に由来する振動も観測を試みたが、結合エネルギーが弱く、測定の限界である50 cm-1に満たないものと推定された。この点はもう少し詳細に検討する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度はすでに作成した専用のセルおよび測定系の最適化を図った。この系の設置により、これまでの大気下での測定では除去できなかった共存する吸着水の影響を除外することができた。その結果、アルカリイオン交換型ゼオライトにおいて、これまでよりはるかに明確な吸収ピークを観測することができ、ピーク波数についての議論に耐えられる結果が得られた。すなわち、アルカリイオンの質量あるいはイオン半径が増加するに従って、ピークは徐々に低波数側にシフトし、Cs体になると測定の限界である50 cm-1を超え、観測できなくなった。さらにアンモニウム型ゼオライトの吸着水を除くことで、アンモニウムカチオンの振動も明確に観測した。 真空加熱排気ができるin-situ測定では、吸着―脱離過程を直接観測することもできた。アンモニウム型ゼオライトを200 ℃まで加熱排気することでアンモニアを脱離させると、アンモニウムのカチオン振動が消滅し、ここに室温で段階的にアンモニアを吸着させることで、アンモニウムカチオン振動が次第に現れる過程を観測した。さらに重アンモニアを用いることで、この振動が低波数シフトし、同位体を用いて振動の同定も行った。現在、アンモニアを脱離させたプロトン型ゼオライトにピリジンおよびその誘導体を吸着させ、カチオン振動を観測することで、波数の質量依存性についての確認を行っている。 配位結合に由来する振動の観測は、アルミナやチタニアなどのルイス酸点を多く有する遷移金属酸化物上にピリジンを廃位させることで試みたが、配位の結合エネルギーが弱く、測定の限界に満たないため観測できてないものと考えている。ただし、触媒試料の高表面積化による吸着種の増加や、上記以外の系での観測を引き続き試みる。
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Strategy for Future Research Activity |
分子の伸縮振動を分類すると、その振動に関わる原子間の結合状態により、強いものから「共有結合性」、「イオン結合性」、および「配位結合性」の3つに分類することができる。ゼオライト触媒に関しては、シリコンがアルミニウムに同型置換したアルミニウムサイトの周りの酸素が負に帯電し、そこにプロトンが結合した際は一番強い共有結合を形成し、すでに中赤外で酸性OH基として観測され、広く研究されている。ここに塩基分子がプロトンを引き抜いてカチオンとして吸着した場合や、イオン交換型ゼオライトの場合は、イオン結合となり「カチオン振動」が観測される。本研究において、金属イオン以外の分子性カチオン振動を観測することができたが、これらの振動エネルギーを換算質量だけで括ることができないことが明らかになった。すなわち、結合の様式によってバネ定数に相当する項の寄与が異なるということを直接確認できた。さらに、イオン結合の際に関わる格子酸素の数によっても力の定数は変化するはずである。これらを議論するために、共有結合に関しては大きなオレフィンの吸着によりアルコキシドを形成させ、そのCO結合を現在観測している領域(4000-50 cm-1)内で質量に関して定量的に扱った上で、同じ波数領域のカチオン振動との比較を行う。カチオンに関してもその帯電形状(全体的か、局在的か)に依存する因子を明らかにする。また、様々なトポロジーのゼオライト試料を比較検討することで、空間由来の特性について議論する。一番弱い「配位結合」の振動は現在のところ観測できていないが、エネルギー的に低すぎて原理的に観測不可能なのか、測定対象をもう少し広げて確認する。
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