2016 Fiscal Year Annual Research Report
事象進展のダイナミズムを考慮したシームレスリスク評価手法の研究
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16H04627
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
山口 彰 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (10403156)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | リスク / マルコフ過程 / モンテカルロ法 / 原子力安全 / シビアアクシデント / 統計的解析 / 伝熱流動 |
Outline of Annual Research Achievements |
工学システムの事故シナリオを定量化する手法として、不確実さ伝播を取り扱い、物理過程の機構論的な解析と直接に関連付けられる方法の開発を目的として、 連続マルコフ過程モンテカルロ法の熱除去失敗シナリオ定量化への適用を実施した。特に、(現実の原子炉システムの炉心損傷過程を構成する事象は、さまざまな支配方程式(保存則など)で記述される現象であることとこれらの事象の組み合わせによりシナリオは構築されるがそれぞれの事象には相互依存性があること、(2)炉心損傷過程においてその事象進展が緩慢である場合には、運転員の回復操作など、アクシデントマネジメント策が有効に機能する。また、回復操作を行うことによりシステムの境界条件が変化し、システム応答が変化することなどのシステムへのフィードバックがあることに留意した。 そこで、上述した問題点を解決できる可能性のあるリスク定量化手法としてマルコフ過程とモンテカルロ法に基づき、現象論的不確実さを考慮した評価手法を検討した。それは、 マルコフ過程を時空間につき連続的に適用し、状態遷移の確率論的特性をモンテカルロ法により評価することにより実現される、その方法を原子力発電所のの熱除去失敗シナリオ定量化への適用した。マルコフ過程は、次の時刻におけるシステムの状態は、現在のシステムの状態のみに依存し、それ以前の状態にはよらないことを前提とする。すると、状態遷移確率を定義できれば、連立常微分方程式を解くことによりシステムの状態を時間の関数で与えることが可能となる。除熱失敗事象においては、冷却材の温度上昇により、炉心の冷却能力阻害が生じ、炉心損 傷が先行する場合と、同じく冷却材の温度上昇により構造バウンダリの強度が低下してバウンダリ破損が先行する場合がありうる。除熱失敗事象では主冷却系統の温度上昇がきわめて緩慢であるため、回復操作に成功すれば炉心損傷を回避できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
原子炉のシビアアクシデントシナリオを定量化する手法としてマルコフ過程と伝熱流動解析を組み合わせる手法を開発した。また、それに対してモンテカルロ法を適用することにより不確かさの評価に成功した。この手法を原子力発電所の事故解析に適用し、特に崩壊熱除去に失敗してシビアアクシデントに至る事象の分析を行った。連立常微分方程式を解くことによりシステムの状態を時間の関数で与えることが可能となった。 解析評価の結果、原子炉システムの場合は、炉心損傷に引き続き核分裂生成物の漏洩パスに関係する事象は、炉心損傷、1次系バウンダリ破損、中間熱交換器破損、2次系バウンダリ破損、格納容器破損である。除熱失敗事象においては、冷却材の温度上昇により、炉心の冷却能力阻害が生じ、炉心損傷が先行する場合と、同じく冷却材の温度上昇により構造バウンダリの強度が低下してバウンダリ破損が先行する場合がありうることはわかった。さらに、除熱失敗事象では主冷却系統の温度上昇がきわめて緩慢であるため、回復操作に成功すれば炉心損傷を回避できること、冷却系の1 箇所が破損すれば、内部の圧力が開放されるため他の部位の損傷の可能性が低くなること、格納容器内にナトリウムが漏洩しその燃焼やコンクリートとの反応により、格納容器内圧が上昇して破損確率は小さくなるなどの知見を得た。 以上のことから、当初予定していた研究目標を完遂したと判断している。事象進展において状態遷移確率の決定の方法については、任意性があることが避けられず、この確率を工学的にまた物理現象にもとづいて決定することが今後の課題である。
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Strategy for Future Research Activity |
開発した方法をより現実的な問題に適用できるよう高度化する必要がある。そこで、連続マルコフ過程モンテカルロ法と機構論的モデルのカップリングを実施する。その理由は、状態遷移確率は一般的に表形式で予め与えることが多いが、連続マルコフ過程モンテカルロ法は柔軟な方法であり、プラントシステム熱流動とのカップリングを行うことが可能である。すなわち、状態遷移確率を定義するとき、表形式で与えるのではなく、そのときの状態量に応じて状態遷移確率を計算することが可能である。各時点における熱流動応答解析を行えば、プラント状態に依存した状態遷移確率を動的に与えることが可能となる。この方法論を開発するとともに、例題に対して適用し、その効果と問題点を明らかにする。 また、事故進展過程には伝熱流動、構造応答、核的応答などの様々な機構論的モデルが含まれるため、システム応答の評価が複雑化すればするほど、リスク評価に適用できる実用的な手法を開発するという当初の目的を満足できなくなる可能性がある。これを解決する方法としてメタモデルを利用する方法が数値実験計画法などの分野で提案されている。メタモデルはプラント応答をその都度解析するのではなく、計算時間の短い数値モデルを予め作成しておく方法である。上記例題に対してその適用性を評価するとともに、課題を明らかにする。 以上を今後の研究の方向性として検討を進める予定である。
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