2017 Fiscal Year Annual Research Report
中枢神経系で働くマウス新規摂食行動制御遺伝子の機能解明
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16H04686
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Research Institution | National Institute of Genetics |
Principal Investigator |
高田 豊行 国立遺伝学研究所, 系統生物研究センター, 助教 (20356257)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
阿部 貴志 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (30390628)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 疾患モデル / 摂食行動 / 肥満 |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者らは、実験動物「マウス」のC57BL/6J (B6)系統と、日本産近交系のMSM/Ms (MSM)系統を利用した順遺伝学的解析を行い、中枢の神経細胞で発現することが予測され、機能も未知の遺伝子Aobs1(オーブ1)を同定した。Aobs1の自然突然変異は、B6の遺伝的背景で過食による肥満を惹起する。Aobs1のヒト相同遺伝子の近傍には、肥満・脂質代謝異常のQTLが検出されている。本研究の目的は、まずAobs1を発現する神経細胞や神経細胞核、神経回路を同定することである。次に、生化学的、組織学的観察で、Aobs1が相互作用するタンパク質などを探索する。これらの解析を通して、Aobs1が摂食行動や肥満に関連した活動を行う遺伝回路を解明し、Aobs1の中枢における機能を明らかにする。最後に、中枢でのAobs1機能不全が遺伝的背景に依存して過食・肥満を発症するメカニズムを解明して、Aobs1変異マウスを実験動物として確立する。 本申請研究のこれまでの成果により、Aobs1転写産物が中枢神経系で機能することが強く示唆された。また、中枢神経系特異的Aobs1機能喪失マウスのエネルギー代謝関連表現型を収集した。さらに、Aobs1を発現する詳細な神経細胞を同定するため、複数の抗体を作製したが、いずれもうまく機能しないことが判明した。新学術領域研究「先進ゲノム支援」により支援を受けた遺伝子発現情報の解析を行い、B6、MSM、コンソミック系統の通常餌ならびに高脂肪食負荷時における脳遺伝子発現リストを作成した。Aobs1の相互作用因子を探索するため、タンパク質タグをAobs1のにノックインしたマウス系統を樹立できた。上記に加えて、Aobs1機能の作用点と既知の制御系の関連を明らかにするため、各種のデータベース情報を利用して、相互作用因子候補の情報収集を継続して行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの成果により、Aobs1転写産物が中枢神経系で機能することが強く示唆されたので、Aobs1の機能を中枢神経系特異的に喪失することが可能なマウスを作製して、Aobs1の中枢神経系での機能類推のための実験的検証を行った。また、中枢神経系特異的Aobs1機能喪失マウスについては、我々が構築したプラットフォームによるエネルギー代謝関連表現型の収集を行った。Aobs1の発現する神経細胞、神経核、神経回路の同定研究に使用するため、複数の抗体を作製したが、未だ1種類の抗体のみしか機能せず、機能している抗体も、組織免疫学的観察には向かないので、今後はin situ ハイブリダイゼーションによる検討に切り替えるべく準備を進めている。新学術領域研究「先進ゲノム支援」の支援により得られた遺伝子発現情報から、通常餌ならびに高脂肪食負荷時において脳で発現差のある遺伝子のリストを作成したが、これ以外のISO-Seq等のデータも活用した有用な情報を得るべく当該データの2次、3次解析を行った。タンパク質タグをAobs1のC末端側にノックインした系統を樹立できたので、この脳組織を利用した相互作用因子の探索を進めたが、生体組織でのタンパク質の発現量が少ないため、タグ抗体による免疫沈降が非常に困難であることが判明した。このため、培養細胞に切り替えて解析を行うための準備を開始した。Aobs1機能の作用点と既知の制御系の関連を明らかにするため既知の摂食制御遺伝子の発現動態や各種のデータベース情報を相互作用因子探索の参考情報とした情報解析を継続して進めた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの成果により、Aobs1転写産物の中枢神経系での活動が示唆される結果が得られたので、遺伝子あるいは転写産物の機能喪失と過食、肥満に関連した各種の検証をさらに進めるべく、Aobs1の発現する神経細胞、神経核、神経回路の同定研究を継続して行う。遺伝子発現情報の2次、3次解析を継続して行い、Aobs1の各種アイソフォームが上記の神経細胞、神経核、神経回路に、どのような特徴を持って分布するかの確認を行う。Aobs1転写産物と、摂食に関わる既知の制御系因子との作用点を明らかにするための研究を一層進める。in situ ハイブリダイゼーションによる脳(神経細胞、神経核、神経回路)における遺伝子発現の検討と他の制御系因子との共局在の確認実験を予定している。タンパク質タグをAobs1の任意の部位挿入したノックイン動物、あるいは細胞を利用したAobs1相互作用因子の探索を進める。Aobs1機能の作用点と既知の制御系の関連を明らかにするための研究については、上記の他、既知の摂食制御遺伝子の発現動態や各種のデータベース情報を相互作用因子探索の参考情報とする。Aobs1のリン酸化などの修飾の有無や、週令、飼育環境を変えた際のこれらの変化の検出については、上記一連の解析結果を参考にしながら遂行の機会を検討する。ヒトGWAS結果など、各種のデータベース情報の中から脂肪蓄積、インスリン作用、2型糖尿病、血中脂質濃度を決める遺伝子座の近傍に位置するヒトのAOBS1遺伝子周辺のゲノム多型収集を継続して行い、疾患との関連を探索する。本年度が当該申請研究の最終年度になるため、これまでの成果を踏まえつつ、Aobs1変異マウスを中枢が関わる摂食行動に関連した肥満や、これが原因として起きる各種疾患のモデル動物として、論文発表を含めた研究コミュニティへの公開を予定する。
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Research Products
(1 results)