2017 Fiscal Year Annual Research Report
大規模な刷り込み型マイクロRNAクラスターの胎盤形成における役割の解明
Project/Area Number |
16H04687
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
井上 貴美子 国立研究開発法人理化学研究所, バイオリソースセンター, 専任研究員 (70360500)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | マイクロRNA / 胎盤 / ゲノム編集 |
Outline of Annual Research Achievements |
胎盤は妊娠期に見られる哺乳動物特異的な器官であり、子宮内で胎児の成長を維持する機能を持っている。本研究では、胎盤特異的な刷り込み発現をするSfmbt2遺伝子のイントロン内にコードされるマイクロ(mi)RNAクラスターの胎盤形成における役割を明らかにすることを目的にしており、前年度までにSfmbt2 miRNAクラスターの欠損マウスを用いて、胎盤における表現型を明らかにした。引き続きその機能を理解するために、平成29年度は以下の内容について研究を行った。 (1)Sfmbt2遺伝子欠損マウスの作製:host遺伝子であるSfmbt2遺伝子は、遺伝子欠損により胎盤の低形成を引き起こし、胎性致死になる事が知られているが、その詳細な機能については明らかになっていない。そこで、CRISPR/Cas9によるゲノム編集技術を利用して、Sfmbt2遺伝子の欠損マウスの作製を行った。遺伝子欠損部位は、miRNAクラスターを含まない約68kbの領域を標的とした。受精卵にgRNAとCas9タンパクを注入し、得られた産仔を解析することで目的の欠損を有する個体を作製した。 (2)Sfmbt2遺伝子欠損マウスの表現型解析:作製したSfmbt2欠損マウスを用いて、父性アレル欠損マウスの表現型を解析した。既報では、妊娠中期で胎性致死になる事が報告されているが、我々が作製したマウスにおいては、明確な表現型は確認されなかった。現在その原因を解析中である。 (3)SFMBT2抗体の作製:SFMBT2タンパクの標的遺伝子を明らかにするための材料として、SFMBT2抗体の作製を試みた。市販の抗体には信頼性が高い製品が無いために、合成ペプチドを抗原としてウサギポリクローナル抗体4ロットを新たに作製した。現在、ウエスタンブロットや組織染色法を用いてその信頼性の確認を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初より29年度以降の研究内容として、miRNAクラスターのhost遺伝子であるSfmbt2の胎盤発生における機能を明らかにすることを計画していた。本年度は、ゲノム編集によるSfmbt2遺伝子の欠損個体の作出を試みており、最終的に個体を得る段階まで研究が進展している。既報では父性アレル由来の欠損個体は胎性致死となる事が報告されているが、予想に反し、我々の作製したマウスにおいては、既報のような表現型は観察されず、胎生期も正常な発生を示している。遺伝子の機能的ドメインの欠損自体は確実に起こしているため、既報と表現型が異なる原因を現在解明しているところである。本年度はモデル動物の作製自体は予定通りに進行しており、進捗状況はほぼ順調であるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度以降も引き続きSfmbt2 miRNAクラスターとそのhost遺伝子であるSfmbt2の胎盤形成における詳細な役割を明らかにすることを計画している。miRNAクラスターのhost遺伝子であるSfmbt2遺伝子は、構造が遺伝子の抑制因子であるpolycombグループに属しており、胎盤の発生過程で何らかの機能を有していると予想される。今年度は、ゲノム編集技術を利用してSfmbt2遺伝子の欠損マウスを作製した。しかしながら、予想外の現象としてSfmbt2遺伝子の欠損マウスにおいて、既報で報告されている胎性致死は観察されなかった。SFMBT2タンパクの機能ドメイン自体は確実に欠損していることを確認しているため、引き続きこの欠損マウスを用いて研究を行っていく予定である。その基盤となるのは、確実に利用出来る特異性の高い抗体の確保であり、次年度はウエスタンブロットや染色法などを用いて、その選定を引き続き行っていく。最終的にクロマチン免疫沈降等に利用可能な抗体を利用して機能解析を行っていく予定である。 前年度までの研究により、Sfmbt2 miRNAクラスターは、胎盤構造の海綿栄養芽層の形成に重要な役割を果たしていることが明らかとなっている。これまでにゲノム編集技術を利用してmiRNAのターゲットと予想される遺伝子を欠損させた個体を作製しているが、今のところ予想された表現型は得られていないため、次年度も引き続き欠損マウスを作製し、ターゲット遺伝子を探索していく予定である。さらに個体を用いた探索が困難な場合も想定し、培養系を利用した実験系の確立やルシフェラーゼアッセイを利用してmiRNAとターゲット遺伝子の3'UTR領域への相互作用を観察していく予定である。
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Research Products
(7 results)