2017 Fiscal Year Annual Research Report
シングルセル・プロテオミクスによるがん幹細胞特性解明
Project/Area Number |
16H04730
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
松本 雅記 九州大学, 生体防御医学研究所, 准教授 (60380531)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | プロテオミクス / シングルセル |
Outline of Annual Research Achievements |
がん幹細胞は“超少数”の細胞群であり、その性質はほとんど明らかになっていない。近年、われわれは次世代型プロテオミクス技術であるiMPAQT法を考案し、ゲノムワイドなタンパク質の絶対定量を可能にするシステムを構築した。本研究課題では、1細胞レベルの解像度でiMPAQTシステムを稼働させる「シングルセルiMPAQT」を開発し、それによってがん幹細胞内部の全代謝酵素を絶対定量し、数理科学的手法を用いてネットワークとしての変化の総体(がん幹細胞シグニチャー)の解明を目指す。本年度は取得したモデル細胞株を対象に微量検体でのプロテオーム解析が可能かを検討した。まずは、データ依存分析法でのLC-MS/MS解析を実施したところ、100細胞程度で1000種類以上のタンパク質を同定することが可能であった。より高深度な解析にはターゲットプロテオミクスが有効であるが、我々が保有するターゲットプロテオミクスのための基盤情報はヒトの配列に限定されているため、マウス配列への拡張を進めた。また、前年度の開発でiMPAQT法を十分な感度に引き上げることができたが、現行の方法では化学標識による内部標準作製を行っているため、微量試料調製におけるボトルネックとなっている。そこで、内部標準を安定同位体標識アミノ酸を取り込ませた人工タンパク質として合成することで、試料調製過程をノンストップで実施できるような系を構築した。さらに、がん幹細胞のシングルセル・プロテオミクスから得られた高度に定量的なタンパク質の網羅的測定データを基に、がん幹細胞特異的ネットワークの構造決定を試みるための、データ解析法や数理モデルの構築を行った。まずリファレンスネットワークを構築し、そこにがん幹細胞から得た大規模なプロテオームデータセットを投影した。さらに取得したプロテオーム絶対定量値を用いて数理モデルの構築を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H29年度においては、当初計画していたがん幹細胞を対象としたトランスオミクス解析を進めた。トランスクリプトームや一般的なショットガンプロテオミクスによる分析を実施した。さらに、プロテオーム解析に関しては特に、昨年度達成したiMPAQTを実施するための装置側の改良に加えて、超高感度な内部標準ペプチドプローブの選定とその縮約化を図る方法論を構築した。具体的には、非標識タンパク質を改めてゲノムワイドに調製し、これを用いて新たに非標識タンパク質のためのMRMメソッドデータベースを構築した。これらの中から、感度的に有利なペプチドを実験的に選出し、これらの配列を連結した人工遺伝子を作製することで、超高感度ペプチドのみで構成される内部標準タンパク質の作製を行うことができるパイプラインを構築した。本方法の開発によって、試料側になんら標識等を加えることなく、微量の検体のiMPAQTによる解析が可能となった。また、定量データを用いたデータ解析法や数理モデリングの手法も確立できており、現在のところ、研究計画に沿った実験とその関連研究を順調に展開しており、今後も特に大きな技術的問題等は生じないと思われる。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、当初の計画通り以下の項目に沿って研究を行う。 H29年度ではiMPAQTで計測できるマウスタンパク質が一部に限られていたので、本年度これを拡張し、より網羅性の高いがん幹細胞定量プロテオームデータの取得を行う。H29年度確立した数理・統計解析法を基盤に、順次取得した定量プロテオームデータや他のオミクス階層のデータを取り入れることで重要ネットワークの推定を行う。得られたネットワークの構成成分を対象に撹乱を与えることで、その作用を検証し、推定されたネットワークの性質や意義の理解を目指す。
|
Research Products
(7 results)