2017 Fiscal Year Annual Research Report
Secondary contact and introgressive hybridization of two genetical strains of the Ryukyu Scope Owl in relation to environmental modification
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16H04737
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
高木 昌興 北海道大学, 理学研究院, 教授 (70311917)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
齋藤 武馬 公益財団法人山階鳥類研究所, 自然誌研究室, 研究員 (40521761)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | リュウキュウコノハズク / オオコノハズク / ESU / ノグチゲラ / 分断種分化 / 生態学的時間スケール / 交雑 / 遺伝子浸透 |
Outline of Annual Research Achievements |
南西諸島に分布するリュウキュウコノハズクは、分断分布による種レベルの遺伝的差異を蓄積した南北二系統に分けられた。それぞれが進化的に重要な単位(ESU)である。しかし沖縄島には小型の北系統が優占するものの大型の南系統が同所的に生息することが確認された。これは人為的環境改変が南系統の分布域を変化させた結果と推察された。地史的時間スケールで形成された近縁種が、生態学的時間スケールで同所的に生息するようになった例である。本研究では、この機会を利用して二系統間に生じる交雑、同類交配、配偶者選択、移動分散など、生態学的諸側面を解明することでESUの実質的な意義を明らかにする。 本研究では分断分布に矛盾する個体群の成立要因を解明する。小型の北系統が生息する沖縄島と奄美大島には、それぞれノグチゲラとオオアカゲラが分布する。この島々においてリュウキュウノコハズクはこれらのキツツキの古巣に営巣する。巣穴の入口サイズが異なる巣箱を架設し、それぞれを利用するリュウキュウコノハズクの系統を明らかにすることが最も重要な野外調査である。 穴のサイズの異なる巣箱を架設した結果、異なる穴サイズの巣箱で繁殖するつがいの系統が明らかになった。本年のデータだけでは繁殖成功の系統間での繁殖の和合性、不和合性に大きな違い確認されなかった。より解析つがい数を増やすことで傾向が見出される可能性がある。生態的に競合するオオコノハズクは小型の巣箱の穴から可能じて出ることができるものの翼を伸ばした状態でしか出入りができないことが分かった。オオコノハズクはノグチゲラの巣穴を巣として利用しないと考えられた。既存の約700個体のリュウキュウコノハズクのマイクロサテライト12個遺伝子座解析を終えた。北系統には渡りをする個体群が存在する可能性が本研究過程で確認されたため、GPSロガーの装着し2017年8個体の回収に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では、リュウキュウコノハズクの巣立ちに雛に衛星追跡GPSを装着し、移動分散と配偶者選択の過程を解明する予定であった。しかし予定していたアルゴスシステムを用いたデバイスが、日本の電波法の基準をクリアーできず使用不可能となった。このためGPSデータロガーを用いることにした。衛星追跡GPSを使用すれば、研究室に居ながらにして測位データが得られたのであるが、GPSデータロガーの場合、再捕獲をしデバイスを取り外した上でコンピュータを用い位置データを取り出す必要がある。そのため再捕獲の可能性が極めて低い雛に、再捕獲が必要なGPSデータロガーを装着することはできない。つまり雛の分散過程の追跡、および配偶者の解明は諦めざるを得なかった。 繁殖個体の土地執着性や配偶者執着性を足輪を用いて確認し、同類交配、異系交配による配偶成功を経年的に比較する現実的な方法を採用することとした。そこで沖縄島では2017年1月に巣箱を架設し直し、新たな繁殖つがいを誘致し、確実なデータ収集が可能になる準備を整えた。繁殖つがいに関する情報の上乗せが期待される。 本研究の過程で北部個体群が渡りをしている可能性があることがわかり、その解明にGPSデータロガーを役立てることができる。個体群の遺伝的構造を解明する上で、重要な情報を提供する。中之島の個体群で捕獲を行いGPSロガーを装着し、2017年8個体の回収に成功した。しかしGPSメーカーの判断ミスで外装の強度が弱く、7個がリュウキュウコノハズクよって破壊されデータ抽出ができなかった。1個はデータ抽出はできたものの想定外に短い電池の寿命により、渡りの経路の解明には至らなかった。2016年5月に鹿児島県トカラ列島中之島に巣箱10個を架設したが、リュウキュウコノハズクは利用しなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
基本的にこれまでと同様の手順で研究を進める。巣穴サイズの選好性、利用可能性を明らかにするために穴のサイズが異なる巣箱を架設し、利用するつがいのを捕獲する。採血からDNAを抽出し、ミトコンドリアDNAを解析することで南北どちらの系統か解明する。穴のサイズが体サイズに関係して生態的な利用制限となっているのかどうか解明する。 系統同類交配があるのかどうか明らかにする。北系雄と南系雌、および南系雄と北系雌の組み合わせの出現頻度を解明する。オス南系統とメス北系統、オス北系統とメス南系統、オスメス同系統の4パターンの繁殖成功を比較する。遺伝構造の解像度を変え、より詳細な帰属を査定できるマイクロサテライト DNAでも同様の解析を行なう。 異なる系統間での繁殖は、卵が孵化しないなど、失敗の頻度が高いと予測される。なおリュウキュウコノハズクにはつがい外受精が確認されている。雛の父性を確認し、社会的つがいによる繁殖成功なのか、つがい外受精によるのかを明らかにすることで、同類交配の繁殖成功をより確実に査定する。またマイクロサテライト解析ではストラクチャー解析による浸透性交雑の様相を明確にする。 生態学的時間スケールでの変化を評価するために剥製からDNAを抽出し、約100年前の遺伝的構造を解明する。山階鳥類研究所蔵の剥製には124 年前から80 年前までのものが 約20 体確認されている。現在では市街化が進み、リュウキュウノコハズクが生息していない那覇市中心部で採集された個体も含まれる。これらをサンプルとし過去の遺伝的構造の推定を試みる。環境改変が現在程進行していない段階の100 年前の沖縄島には、南系統は生息していなかったと予測される。
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