2016 Fiscal Year Annual Research Report
クロロフィル蛍光による細胞内代謝推定システムの構築
Project/Area Number |
16H04809
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
園池 公毅 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (30226716)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 光合成 / シアノバクテリア / クロロフィル蛍光 / レドックス / 代謝 / 電子伝達 / 光化学系 / NADPH |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度の最大の進展は、クロロフィル蛍光の時系列データから得られる情報として、従来から言われていたプラストキノンプールのレドックス状態だけではなく、NADPHのレドックス状態が大きな役割を果たしていることを示すことができたことである。光化学系Iと光化学系IIの間に存在するプラストキノンプールは、二つの光化学系の電子伝達活性の相対的な比を反映するとともに、このプラストキノンプールを光合成の電子伝達鎖を共有する呼吸系の電子伝達鎖の状態を反映することを、これまで報告してきた。このプラストキノンプールのレドックス状態は、クロロフィル蛍光の時系列データのピークの高さとして反映される一方、NADPHのレドックス状態はピークの位置(出現時間)として反映されることを明らかにした。ピークの位置は、NADPHのレドックス以外にも、測定試料中のクロロフィル濃度によっても影響を受けるため、クロロフィル濃度を一定にした試料において測定するなどの一定の配慮が必要となるが、従来特殊な測定機器を使用することが必要であったNADPHのレドックス状態を、簡便なクロロフィル蛍光の時系列データの測定のみから推定できるようになったことは、蛍光挙動に理論的な裏付けを与えるという本研究の主要な目的への大きな一歩となったと考える。 さらに、NADPHのレドックス状態は、光合成の電子伝達の状態を反映するだけではなく、細胞内の炭素代謝などの広範な代謝系の影響を反映していることが明らかとなりつつある。このような代謝の相互作用は、次年度以降の重要な解析テーマとなると考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究費により購入したジョリオ型分光器(JST-10)は、クロロフィル蛍光とともに微笑吸収変化の測定によって光化学系Iの反応中心クロロフィルであるP700のキネティクスを測定することが可能である。従来、このP700の測定は、ドイツのWalz社のクロロフィル蛍光・吸収測定装置Dual PAMによって行っていた。Dual PAMは、生葉での測定にはきわめて適していたが、シアノバクテリアの生細胞の懸濁液での測定には、高濃度の試料を必要とし、その応用範囲が限られていた。子会のジョリオ型分光器の導入により、期待していた以上に測定の応用範囲が広がり、結果としてクロロフィル蛍光によって推定されていた光合成系の変化が実際に起こっているのかどうかの検証を的確に進めることが可能になった。 一方で、Dual PAMは、NADPH測定ユニットの増設によって光化学系Iの還元側のレドックス状態を測定することが可能であり、このデータとジョリオ型分光器で得られたデータを総合的に解釈することにより、光合成の解析能力は格段に上がった。 上記の研究環境の改善は、年度初めに発表したMisumi et al. (2016)による6種のシアノバクテリアの解析結果に加えて、年度の最後には、対象を真核藻類に広げてMisumi and Sonoike (2017)として受理され、さらに、クロロフィル蛍光測定の測定方法についての総説をOgata et al. (2017)として発表することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度の研究により、クロロフィル蛍光の時系列データは、プラストキノンプールのレドックス状態だけでなく、NADPHのレドックス状態をも反映し、そのNADPHのレドックス状態は、代謝の相互作用を通して、広い範囲のシアノバクテリア細胞内代謝を反映していることが明らかとなった。一方で、シアノバクテリアの細胞への試薬の添加がクロロフィル蛍光の時系列データへ与える影響の解析からは、有機酸とアミノ酸の間で、その影響に大きな差があるとの予備的な結果を得ている。このことは、シアノバクテリアの代謝系の相互作用の中で、窒素代謝が重要な位置を占めていることを示唆しており、この点がシアノバクテリアの細胞の中の複雑な代謝の相互作用を切り分けて解析する上での突破口になるのではないかと考えている。今後は、そのような方向性で研究を推進することを考えている。
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Remarks |
研究成果の一部は、早稲田大学のサイトのトピック欄の記事(https://www.waseda.jp/top/news/50221)として紹介された
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