2018 Fiscal Year Annual Research Report
長期記憶形成における時計遺伝子periodの新規機能の解明
Project/Area Number |
16H04816
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
坂井 貴臣 首都大学東京, 理学研究科, 准教授 (50322730)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
上野 耕平 公益財団法人東京都医学総合研究所, 認知症・高次脳機能研究分野, 副参事研究員 (40332556)
武尾 里美 首都大学東京, 理学研究科, 助教 (10642100)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | Period / 長期記憶 / ショウジョウバエ / 時計遺伝子 / LNd |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究ではショウジョウバエの時計遺伝子period(per)に注目し,長期記憶に必須なper発現細胞の同定と,perの分子機能を解明することを目的として研究を行った。人為的に神経活動を抑制する技術を利用してper発現細胞の中で長期記憶に必須な神経細胞群を調べた結果,LNd, l-LNv, LNd, DN1 と呼ばれる4つの神経細胞群の関与がこれまでに明らかになっていた。2018年度はLNdと呼ばれる6個のニューロンで構成される細胞群に注目し、6個のうち少なくとも2個のニューロンが長期記憶に関与することを明らかにした。さらに、温度依存的にシナプス伝達を制御できる技術を利用し、これら2個のニューロンは長期記憶の維持に必須であることを明らかにした。 Perタンパク質は複数のタンパク質との相互作用ドメインを持つ。長期記憶形成におけるPerタンパク質の分子機能を推定するため,Perタンパク質のどのドメインが長期記憶形成に必須であるのかを明らかにする実験を計画した。Perのタンパク質相互作用ドメインであるPASドメインを欠失させたPerΔPAS,主にPerのPASドメインを持つPer truncated form(Per-PAS),転写因子Clock/Cycleとのinteraction domain(CCID)を含むPer-CCID,光受容タンパク質Cryとのinteraction domainを含むPer-C,という4つの改変型Perを強制発現するための形質転換系統をこれまでに作製していた。2018年度はPerのCCIDを欠失するPerΔCCID系統も作成した。PerΔCCIDを時計ニューロン全体で強制発現すると、概日リズムが長周期化、もしくは消失することが明らかになった。これらの結果から、PerΔCCIDは内因性のPerに対してドミナントネガティブ効果を示すことが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの研究から,per発現細胞の中でもLNdと呼ばれる神経細胞群が長期記憶形成に関与することが示唆されていた。2018年度はLNdに注目し,LNdのみに目的の遺伝子を発現することができる2つの遺伝子発現システムを利用して研究を行った。改変型Perを発現させて長期記憶を測定するため, 昨年度から引き続きmCherry-off GFP-onシステムと名付けた遺伝子発現システムの確立に取り組んだ。このシステムでは,組換え酵素FLPによるフリップアウト法と,2つの遺伝子発現システム(GAL4/UAS, LexA/LexAop)を組み合わせ,目的遺伝子が発現しない場合はLNdが赤色蛍光を発し,発現した場合は赤から緑の蛍光に変化する。これまでに, LNdにPerを強制発現するための形質転換系統が完成した。さらに、Split GAL4システムを利用し、LNdの2つのニューロンのみにSplit GAL4が発現する系統作製に成功した。このSplit-GAL4系統と温度依存的にシナプス伝達を阻害できるUAS-shibire[ts1]系統を組み合わせた実験により、LNdの2つのニューロンは獲得した長期記憶を維持するために必要であることが明らかになった。また、これらのニューロンのPerの発現抑制すると長期記憶が消失することも確認した。さらに作製した4つの改変型Perを時計ニューロンで強制発現した時にサーカディアンリズムに及ぼす影響を確認した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに,mCherry-off GFP-onシステムに利用した形質転換系統の作製が完了した。また,LNdの2つのニューロンのみに目的遺伝子を発現させる技術も確立できた。LNdの2つのニューロンの神経活動は長期記憶の維持に必要であることがわかったが、これらのニューロンにおけるPerの機能はまだよく分かっていない。今後は、まずLNdで発現するPerが長期記憶の固定化、維持、想起、のいずれに関与するのかを明らかにするため、LNdで発現する複数のGAL4系統とRNA干渉法、および時間的空間的遺伝子発現システムを組み合わせて実験を行う予定である。 次に、長期記憶はハエのキノコ体と呼ばれる記憶中枢で作られる。よって、LNdニューロンは1)キノコ体ニューロンへ情報を伝達する、もしくは、2)キノコ体ニューロンからの情報を受け取る、可能性がある。そこで、LNdニューロンがキノコ体と直接シナプスを介した情報伝達を行っているのかどうかを明らかにする。 LNdの2つのニューロンで発現するPerの分子機能を明らかにするため、LNd特異的にPerΔPAS, Per-PAS、Per-CCID、Per-C,およびPerΔCCIDを強制発現し、長期記憶が消失するコンストラクトを選別する。PerΔPASにはCCIDが含まれているため,PerΔPASの強制発現は内在性のPerの発現を抑制する可能性が考えられる。そこで、Per-CCIDの強制発現がPerΔPASの強制発現と同様の表現型を示すかどうかを確認する。次に、perの機能喪失型変異体の時計ニューロンにPer, PerΔPAS, Per-PAS、Per-CCID、Per-C,およびPerΔCCIDを強制発現し,長期記憶が回復するかどうかを確認する。これにより長期記憶におけるLNdで発現するPerの分子機能を推定する予定である。
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Research Products
(7 results)