2016 Fiscal Year Annual Research Report
花香が明らかにする二つの異なる送粉者への特殊化:「絞り込み型」と「新規獲得型」
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16H04830
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
酒井 章子 京都大学, 生態学研究センター, 准教授 (30361306)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
乾 陽子 大阪教育大学, 教育学部, 准教授 (10343261)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 送粉ネットワーク / 送粉共生系 / 花香 / 植物繁殖生態学 / 化学生態学 |
Outline of Annual Research Achievements |
送粉生態学の中心的課題の一つである植物の送粉者に対する特殊化は、その条件や要因について、十分に理解されているとはいえない。申請者は、異なる特殊化過程が区別せずに議論されていることが、その理解を阻んでいると考えた。多くの理論的研究で想定されている特殊化は、他の訪花者を排除し送粉者を絞り込んで成立した送粉様式(絞り込み型)である。一方、もっとも高度に特殊明かした関係が見られるのは、花蜜などの報酬や騙し送粉によって新しい送粉者を獲得し、新しい送粉者への適応が他を排除する結果となった送粉様式(新規獲得型)である。これらの特殊化がおこる条件や要因は、大きく異なっていると考えている。本研究の目的は、絞り込み型と新規獲得型の区別を提案し、これらの違いを送粉様式と花香の関係から裏付けることである。そのために設定した3つの小課題について、当該年度の研究実績の概要を以下に示す。 (1)送粉ネットワーク構造を決める要因:送粉者の絞り込みと新規獲得は異なる要因でおこり、区別する必要があること、それらと送粉ネットワークの構造の関係についてまとめた。また、これについて、チューリッヒ大学で講演を行い、関連する研究者らと議論を行った。 (2)花香のメタ解析:花香のメタ解析のため、232種の植物の花香データをデータベースとしてまとめた。今後のデータベース構築、解析方針について、共同研究者らと議論をおこなった。 (3)絞り込み型、新規獲得型での花香と送粉様式の進化的関係:本研究でターゲットとしているオオバギ属について送粉者と植物の関係の詳細を明らかにし、花香成分を調べるための観察・サンプリングを行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までに、以下のような成果を得ており、順調に進捗していると考えている。 (1)送粉ネットワーク構造を決める要因:絞り込型と新規獲得型の違い、それと送粉ネットワーク構造の関係について、9月にスイスのチューリッヒ大学でセミナーを行った。また同大学の生態ネットワークを専門とする研究者らと議論を行い、アイデアを深めた。 (2)花香のメタ解析:文献に基づいた花香のデータベース構築を、進めており、現在232種の植物から記録された600以上の成分をデータベースにまとめた。また、成分名の統一を行いやすくするため、CAS登録番号、組成式を付した。 (3)絞り込み型、新規獲得型での花香と送粉様式の進化的関係:沖縄において、オオバギの花香を採集した。花香が送粉者であるカメムシの行動とどのような関係にあるのかを明らかにするため、すでに送粉者が定着しているが開花が始まっていないステージ、すでに開花が始まっているステージ、を区別して、オスの花、メスの花を、複数の個体から採集した。花香の採集には、検討の結果TENAXを用いたヘッドスペース方を用いた。採集したサンプルは、ガスクロマトグラフィー質量分析計による分析に供する予定である。また、送粉者と植物の関係をより詳細に明らかにするため、蜜腺の形態学的検討を行うためのFAAサンプル、安定同位体比分析のための送粉者(成虫、幼虫)と植物の乾燥サンプルも採集した。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)送粉ネットワーク構造を決める要因:これまでに引き続き、送粉者の絞り込みと新規獲得は異なる要因でおこること、それらが送粉ネットワークの構造に大きく影響をおよぼしていくことを理論的研究や実証研究に照らしながら検討していく。検討した結果は、他の関連した研究者とも議論しながら、短いレビューにまとめる。 (2)花香のメタ解析:すでに着手した、花香のメタ解析のためのデータ・セット構築を、進めていく。成分名の統一や、同定レベルの異なる研究をどこまで含めるのかが、重要な検討課題である。また、どのような方法を用いて統計的な解析を行うのか、既存の研究を参考にしながら検討する。送粉様式の分類、入力も行っていく必要がある。 (3)絞り込み型、新規獲得型での花香と送粉様式の進化的関係:まずは、昨年度採集したオオバギ属の花香の分析を行う。またオオバギ属のカメムシ媒について、その進化経路をより詳細に検討するため、蜜腺の解剖学的検討、安定同位体分析を用いた送粉者の花蜜への依存の程度の評価を行う。また、さらにサンプルを増やすため、再度採集を行う。採集においては、花序の開花ステージや雌雄の違いにも注意し、花香が送粉者の行動を制御するような機能を持つのか注意する。また、他の分類群についても、観察・サンプリングを行っていく。2年目にあたる2017年度には、ショウガ目について、花香の採集を行う。糞虫によって送粉されるロウイア科、ハナバチによって送粉されるショウガ科、鳥によって送粉されるバショウ科の花香の比較を行いたい。
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Research Products
(1 results)