2017 Fiscal Year Annual Research Report
脊椎動物の陸上進出を促した精子・生殖様式の多様化機構の解明:カジカ魚類の比較から
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16H04841
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
安房田 智司 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 准教授 (60569002)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
宗原 弘幸 北海道大学, 北方生物圏フィールド科学センター, 准教授 (80212249)
古屋 康則 岐阜大学, 教育学部, 教授 (30273113)
武島 弘彦 総合地球環境学研究所, 研究部, 外来研究員 (50573086)
柴 小菊 筑波大学, 生命環境系, 助教 (70533561)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 精子 / カジカ科魚類 / 交尾 / 精子競争 / 卵の保護 / 産卵管 / 種間比較 / 種内変異 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、海産カジカ科魚類における1. 交尾・卵寄託種の産卵場所と産卵管形態、2. 交尾および卵保護様式の進化に伴う精子の進化について研究を行った。 1. 交尾・卵寄託種の産卵場所と産卵管形態:日本沿岸に生息する8種の卵寄託カジカ科魚類は、ホヤに産卵するために非常に長い「ホヤ用の産卵管」を持つ種と短めの「カイメン用の産卵管」を持つ種に分けられることが、一連の研究により明らかとなっている。今年度は、系統の異なる北米のカジカ科魚類やカジカ科魚類ではない種であってもホヤやカイメンに産卵することが知られている種を対象に、産卵場所と産卵管形態を調査した。まず、アメリカ・モントレー湾でホヤへの産卵が示唆されているOrthonopias triacisの産卵管を調べた結果、予想通り、ホヤ用の産卵型を有していた。また、北海道でカイメンへの産卵が報告されているイソバテング(ケムシカジカ科)とヤギウオ(トクビレ科)の産卵管を調べた結果、大型種にも関わらず短い「カイメン用の産卵管」を持っていた。今年度の研究結果より、系統的な近縁性に関係なく、利用する卵寄託場所の無脊椎動物の種類や大きさが産卵管の長さと強く関係しており、卵寄託行動や産卵管は様々な系統で独立して平行進化したことが示された。 2. 交尾および卵保護様式の進化に伴う精子の進化:アメリカ・モントレー湾で潜水調査を行い、7種の海産カジカ科魚類の精子計測を行った。この中には、同じ属の中に交尾種と非交尾種が見られるArtedius属2種やタイドプールで繁殖するClinocottus属が含まれる。また、3種の精子データを新規に収集することができたほか、トクビレ科やアイナメ科など、外群に含まれる種の精子データも収集することができた。精子形態や運動性はこれまでの予測と完全に一致し、交尾行動や精子競争は精子の進化の原動力であることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究内容の1. 交尾・卵寄託種の産卵場所と産卵管形態については、アメリカ・モントレー湾の海産カジカ科魚類およびホヤやカイメンに産卵することが知られている北海道産のイソバテング(ケムシカジカ科)とヤギウオ(トクビレ科)の産卵管について調査した。これらの種の産卵管の長さや形態についてはこれまで知られておらず、本研究で初めて明らかにした。特に、卵寄託行動や産卵管が様々な系統で独立して平行進化したという仮説の検証は、大きな成果と言える。一方で、産卵に利用されるカイメンやホヤの大きさについてはデータが十分とは言えず、これは今後の課題である。 研究内容の2. 交尾および卵保護様式の進化に伴う精子の進化については、アメリカ・モントレー湾で、海産カジカ科魚類の繁殖期に予定通りに調査を実施し、十分な精子のデータを取ることができた。特に、これまで採集されていなかったArtedius属、Clinocottus属、Icellinus属の3種について、精子のデータを初めて収集できた成果は大きい。これで予定とする42種のデータがほぼ揃ったことになる。一方で、茨城に生息するイダテンカジカやムツカジカ、北米のタイドプールに生息するOligocottus属については、未だに産卵場所が分かっておらず、今後、時期を変えて調査するなどの対策を講じる必要がある。 「カジカ科魚類では雄保護から雌保護もしくは卵寄託へと進化すると精子競争が激化する」という仮説を検証するための親子判定の研究については、やや遅れている。また、ミトコンドリアゲノム16kbのシーケンスによる系統解析もやや遅れている。必要なDNAサンプルは今年度でほぼ揃ったため、順次解析を進めていく。 以上より、進行の遅れているテーマはあるものの、おおむね順調に進んでいると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は大きく3つの研究を行う。 1. 分子系統樹の作成:これまでに収集したDNAコレクションと、2016年と2017年に得られた種を加えた約100種のミトコンドリアゲノム配列(16kbp)を決定する。これまでの国内外の調査で精子の進化に重要なカジカ科魚類のDNAはほぼ採取できており、カジカ科魚類の正確な分子系統樹の作成により、交尾の進化プロセスや精子進化の解明につながる。 2. 一卵塊当たりの父親数の推定:行動観察より導かれた仮説である「海産カジカ科魚類では、雄保護から雌保護もしくは卵寄託へと進化すると精子競争が激化する。」を検証するために、採集した卵塊のDNA分析により、一卵塊に関係する雄の数を推定する。昨年度までに、非交尾・雄保護種であるヒメフタスジカジカ、ウスジリカジカ、交尾・雄保護種であるオニカジカ、ラウスカジカ、交尾・卵寄託種であるアサヒアナハゼ、スイの卵塊と親種を収集できている。これまでに開発されたマイクロサテライトマーカーを用いて、一卵塊に関係する父親数を明らかにする。 3. 系統種間比較解析:昨年度の調査までに、生態・精子・交尾器のすべてのデータが揃った種は37種となった。これらに加えて、6種を現在、調査および解析中である。また、ホヤやカイメンに産卵する産卵管についても計13種からデータが得られた。今年度、卵塊の父親数推定によって、異なる繁殖様式間での精子競争レベルの違いを明らかにできる。目標とする42種がほぼ揃ったので、これらのデータと今年度作成するカジカ科魚類約100種の分子系統樹を使って、最新の系統種間比較法で解析を行う。最終的に、交尾と卵保護様式の進化に伴う精子、交尾器および産卵管の多様化機構を解明し、本申請の目的を達成する。得られた成果は、論文として取りまとめ、速やかな公表に努める。
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Research Products
(24 results)