2017 Fiscal Year Annual Research Report
イネ科C4作物における群落レベルの光合成の実態と光環境順応・適応機構の解明
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16H04868
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
上野 修 九州大学, 農学研究院, 教授 (70414886)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 植物生産生理学 / C4作物 / 個体群 / 光合成 / 光環境順応 |
Outline of Annual Research Achievements |
作物個体群では上層部の葉の成長により下層部が遮光されるため,下位葉の弱光への順応が個体群の生産性に関わっていると考えられるが,C4作物については不明な点が多い。そこで、トウモロコシ個体群の成長に伴う光環境の変化を想定して、強光下で形成された陽葉がどのように弱光に順応するのかを遮光処理実験により検討した。その結果、遮光処理葉の光合成速度は強光域では非処理葉よりも低くかったが、弱光域では高かった。また、光合成量子収率、光補償点、暗呼吸速度も低かった。遮光処理葉と非処理葉では葉厚、維管束間距離、葉肉細胞と維管束鞘細胞(BSC)の大きさには違いはなかった。一方、遮光処理葉ではBSCに含まれる葉緑体のサイズとミトコンドリア数の減少が起こった。したがって、弱光処理葉は強光で形成された葉の基本骨格構造を変化させることなく、オルガネラおよび生化学レベルの変化を起こすことにより、光合成特性を弱光に順応させることが明らかとなった。 次に、圃場で育成したトウモロコシ個体群において、下層部の葉が個体群全体の光合成に対してどのくらい寄与しているのかを推定した。草高が約3 mに達した個体群を20 cm毎の15層に分割した。葉の垂直分布は190 cm層をピークとした山型となり、日中の光強度は230 cm層以下で最上層の50%以下、190 cm層以下で20%以下となった。日中の個体群光合成のうち、最上層の50%以下および20%以下の受光強度で行われる光合成の割合は42%および7%であり、日中を通してほぼ一定であった。葉内窒素含量は上層から下層へと低下傾向を示したが、葉面積当りの葉緑素含量は上層と下層とで差は見られなかった。トウモロコシ個体群では、ほとんどの葉は最上層の葉の50%以下の光強度下で光合成を行っており、光合成全体に対する割合は4割と見積もられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は2つのテーマについて実験を行った。その一つはポット栽培したトウモロコシの遮光実験によるものであるが、強光下で形成された葉が弱光条件に移されたときどのように順応するのかを、形態的、生理生化学的に解析した。この結果は、トウモロコシ個体群の形成過程において上層部の葉の成長に伴い下層部の葉が遮光されたとき、強光下で一度分化した葉がどのように弱光順応するのかを実験的に明らかにしたものである。また、もう一つのテーマとして、圃場で栽培したトウモロコシ個体群について、C4光合成の作動にとって不利とされる弱光環境に置かれている下層部の葉が、どのくらいの光合成を行っているのかを群落光合成モデルを用いて評価した。これにより、トウモロコシ個体群における光合成能力の空間的分布の実態が明確となった。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、陰性環境に生育できるイネ科C4植物を用いて、葉の形態反応や光合成特性の適応能力を明らかにする予定である。これらの結果から、強光下で高い光合成能力を発揮する通常のイネ科C4作物と弱光環境に適応したイネ科C4植物との間で、どのような特性に違いがあるのかを明らかにし、C4作物の個体群光合成能改善の方策を検討する。
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