2016 Fiscal Year Annual Research Report
転写装置の新規機能とネットワーク解析による生存戦略の再評価
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16H04903
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture |
Principal Investigator |
吉川 博文 東京農業大学, 応用生物科学部, 教授 (50175676)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | RNAポリメラーゼ / 緊縮応答 / 耐熱化 / 枯草菌 / 機能ネットワーク / 実験進化 / トレードオフ |
Outline of Annual Research Achievements |
緊縮応答に関与するRNAポリメラーゼの機能として、アラーモンppGppの合成酵素をすべて欠いた株の抑圧変異解析を行ったところ、rpoB, rpoCのコア酵素の変異が同定された。これらの株の転写活性を測定したところ、転写開始点+1Aに対する+1Gの転写レベルが低下した。すなわち、細胞内GTPレベルの低下を引き起こせなくなった株においても、+1ヌクレオチドに対する親和性を変化させることにより、rRNAオペロンの発現を制御し、緊縮応答を可能にしていることが明らかになった。 主要シグマ因子SigAのみが機能するSigA only株において高温での溶菌を抑圧するrpoCの変異株を得ているが、この変異を野生株に戻したところ、高温での生菌率が上がり、耐熱化したことが分かった。この株は常温では胞子形成頻度が下がったり、運動性が消失するなど、対数増殖後期の機能低下が多く観察された。モデル微生物において、高温耐性の獲得は常温での生育速度を犠牲にする等、トレードオフの考え方が一般的になってきているが、枯草菌においては、胞子形成開始等、対数増殖後期の機能をトレードオフの対象にしていることが考えられた。なお、胞子形成率低下の要因については初期胞子形成シグマ因子依存の発現が低下しており、シグマ因子との親和性が変化したことが考えられた。一方、別途さらなる植継ぎによって高温馴化株の取得にも成功した。 プロモーター認識に関するコア酵素の機能として、-10~+1領域にあるアデニン(A)の数に依存してコアがプロモーター認識特異性を担っている、という仮説を提唱したが、Aの数を変化させたさまざまな変異プロモーターを構築してレポータ-アッセイを行ったところ、予想通りプロモーター活性が変化した。この機能は枯草菌RNAポリメラーゼが特異的に持っていると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
緊縮応答に関する転写装置の機能に関しては、GTPレベルの低下を引き起こさずに、転写レベルで調節するという細胞の巧妙なしくみを明らかにすることが出来た。一方で、転写装置以外にも同定された抑圧変異があり、この解析も進行中であるが、ATPとGTPのバランスが重要なのか、GTPレベルだけが鍵になっているのかという点は謎として残っている。さらに、先行研究との違いはメチオニン要求株を用いなかった点であり、多くの新知見に繋げることが出来たが、メチオニンの効果は再現出来るもののそのメカニズムは不明であり、今後の課題として残っている。 高温耐性に関するモデル微生物の研究は近年、次世代シーケンサーの普及とともに増加しつつあり、常温での生育活性を抑制して耐熱化するというトレードオフの考え方が認識されつつある。この点において、枯草菌を用いた解析では胞子形成初期過程のプロセスをトレードオフの対象としているという新知見を得ることが出来た。胞子形成初期過程はエネルギーを多く消費する過程であり、そのエネルギー消費を節約して耐熱化機構に回していると考えると合理的な説明が出来る。 一方で、キメラRNAポリメラーゼの解析ではプロモーター認識特異性の変換を目指したものの、明確な結果が得られなかった。この方向に関しては戦略の見直しが必要であると考える。また、DNA修復に関する転写装置の機能に関しては担当学生の離脱により、推進出来なかったため、研究体制の見直しを予定している。
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Strategy for Future Research Activity |
当初計画のなかで順調に推移している緊縮応答関連および耐熱化関連研究は、基本的手法も確立し新たな展開を見せているため強力に推進する。すなわち緊縮応答に関するRNAポリメラーゼの機能については、転写活性における+1ヌクレオチドとの親和性変化が要因であることを明らかにしたため、精製ポリメラーゼを用いたin vitro転写実験などにより分子機構を検証していく。またin vivoでゲノムワイドに検証するため、当研究室で確立させたTSS-seq 法を計画する。一方、不明なまま残っている課題としてPRPP合成酵素の変異があるが、HPLCによるATP, GTPの定量法を改善し、より正確に定量する方法を考案したのでこれを用いて検証する。また、メチオニンの効果に関してはメチオニン代謝系の中で重要なシグナル分子として知られるSAMに注目し、プリンヌクレオチド生合成との関連を調べることにする。 耐熱化関連研究は、枯草菌の生育限界温度での生存率が上がった株を得ているが、これらの株を出発点としてさらに実験進化の手法により、耐熱化を目指す。応用的に重要な工業微生物を多く含む近縁のBacillus属細菌への波及効果も期待出来る。一方、耐熱化のトレードオフとして胞子形成初期に働く多くの遺伝子を同定しているが、これらの解析を、本研究の根幹に関わる生存戦略を解明する上で最重要課題として位置づける。具体的にはOdhBの胞子形成に関わる新規機能解析やScoC, AbrBといった増殖相遷移期に働く転写因子の機能を新しい視点から解析する。 キメラRNAポリメラーゼの研究課題は、転写装置、特にコアの新規機能として注目しており、細菌の種間における発現特異性を解明する新たな視点としても重要と考える。保存性の高さを考慮してサブユニットレベルでのキメラポリメラーゼ等を構築し、合成生物学的研究分野に新たな視点をもたらすことを目指す。
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Research Products
(6 results)