2016 Fiscal Year Annual Research Report
スギ心材ノルリグナンのポスト生合成化学-心材の成熟という新規概念-
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16H04952
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
今井 貴規 名古屋大学, 生命農学研究科, 准教授 (20252281)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | norlignan / heartwood / Cryptomeria japonica / agatharesinol / sequirin C / oligomer |
Outline of Annual Research Achievements |
(1) ノルリグナンオリゴマーの分析: アガサレジノール(A)およびセクイリンC(S)を混合基質として市販ペルオキシダーゼによる酸化を行い、生成物を高速液体クロマトグラフ質量分析(SIM-HPLC-ESI-MS)分析を行った。LCMS分析では、想定される複数のm/z値を採用した。例えば、A(MW:286)とS(MW:302)の共重合二量(AS)の検出では、286+302(588)から1点での結合に伴う2水素原子を減じたMW 586を想定し、ポジティブ検出ではm/z 609:[M+Na]+,625:[M+K]+、ネガティブ検出ではm/z 585:[M-H]-,621:[M+Cl]-を用いたSIMの結果、これらのイオンを同時に与える化合物が検出された。他に、MW 582(-4H)および584(-2H)のASが検出された。この手順により12種のAA、12種のAS、7種のSS、7種のAAS、11種のASSおよび4種のSSSが確認され、さらに、いくつかがスギ心材中に確認された。
(2) スギ木部からの粗酵素液の調製および酸化酵素活性の検出: スギ辺材、移行材および心材を凍結状態で粉砕した。この木粉について、緩衝液抽出に続き硫酸アンモニウム塩析により、40%および70%硫安沈殿(粗酵素)に分画した。各粗酵素液について、カテキンを基質とする酸化酵素検定の結果、活性は辺材や移行材のみならず、心材、特に外方3年輪分から調製された粗酵素液にも検出された。酸化酵素活性は主に、70%硫安沈殿に検出された。辺材の場合には、過酸化水素の添加により酸化酵素活性は増大するのに対し、移行材・心材の場合には増大しなかった。 ノルリグナンを基質とした場合の生成物についてLCMS分析を行った結果、複数のノルリグナンオリゴマーが検出され、さらに、いくつかがスギ心材中に検出された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1) ノルリグナンオリゴマーの分析: 先ずは各種分析条件の検討の結果、本補助金にて設置された高速液体クロマトグラフ質量分析装置(LCMS)により、ノルリグナンオリゴマーの分離・イオン化が達成された。一つの化合物につき、構造の裏付けとなるイオンが4種類検出され、この点、単一イオンにより構造推定するとした当初の想定を超える結果である。当初の計画のとおり、モデル重合物の分析を発展させ、スギ材中のオリゴマー分析が達成された。オリゴマーの異性体分類を達成した点、当初予定を超えているといえる。 (2) スギ木部からの粗酵素液の調製および酸化酵素活性の検出: 先ずは、生細胞をほとんどあるいは全く含まないスギ材の種々部位から、酵素を抽出する手順が確立され、その後の実験が可能となった。フェノール酸化酵素の硫酸アンモニウム分画濃縮、活性の検出・部位間比較、酵素酸化生成物のLCMS分析・オリゴマーの検出確認、が達成された。これら酵素実験は、(1) の当初計画を大きく発展させたものである。 (3) オリゴマーの単離・構造決定: 核磁気共鳴スペクトル(NMR)構造解析に十分な量の化合物が得られなかったため、当初予定に達することができていない。 (4) ノルリグナンオリゴマーと細胞壁多糖との結合に関するモデル実験: ノルリグナンをグルコースの存在下にて重合した。重合物の各種分析(可視光スペクトル、蛍光スペクトル、NMR測定)の結果、重合物中にグルコースが取り込まれていることが確認された。これら実験は当初、研究期間2年目(平成29年度)に計画されたものであり、当初の予定を大きく超えているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
(1) ノルリグナンオリゴマーの単離・構造決定: これまでは高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による化合物単離を試みていたが、本法によりNMR構造解析に十分な量の化合物を得ることは困難であった。今後、分取液体クロマトグラフ装置を導入し、化合物単離の効率の改善ならびに収量の増大を目指す。
(2) スギ材酵素実験: スギ材酵素反応物の量的・質的解析を進める。現在のところ、単一反応条件、1個体のスギを用いた実験結果である。そこで、反応条件(特に、pH)の違いによる生成物の量的・質的変化の調査が求められる。また複数のスギ個体を用いた実験が求められる。この時、スギ材色にはノルリグナンの酸化等の変化が関与していることが知られているため、色調の異なるスギを材料とすることが考えられる。
(3) ノルリグナンオリゴマーと細胞壁多糖との結合に関するモデル実験: 現在のところ、重合物中に炭水化物が取り込まれることは証明された。一方、ノルリグナンと炭水化物が真に化学結合している証明はなされていない。この結合の証明が早急に求められる。結合様式として、炭水化物の水酸基を介したエーテル結合を想定している。そこで、水酸基が脱離した各種グルコース誘導体の存在下でのノルリグナン重合を試みる。例えば、2-デオキシグルコースを用いた場合に重合物中の炭水化物含有量が少ない場合、グルコースはその2位水酸基を介して結合していると判断される。
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Research Products
(1 results)