2016 Fiscal Year Annual Research Report
遺伝子ノックアウト/インによる魚類精子形成のコントロール
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16H04965
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
藤本 貴史 北海道大学, 水産科学研究院, 准教授 (10400003)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山羽 悦郎 北海道大学, 北方生物圏フィールド科学センター, 教授 (60191376)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 遺伝・育種 / ゲノム編集 / 不妊 |
Outline of Annual Research Achievements |
性転換クローンドジョウが低運動性精子を産出する原因と考えられる遺伝子(以下、遺伝子X)の全長単離を行うために、交雑由来とされるクローンドジョウの祖先系統であるA系統とB系統の野生型ドジョウから遺伝子Xの単離を行った。その結果、A系統とB系統ともに1366bpのmRNAをコードする塩基配列の単離に成功した。それらを比較した結果、両系統間では僅かな塩基配列の違いが見られ、演繹アミノ酸配列においても違いが観察された。さらに、B系統の野生型ドジョウを用いて該当遺伝子をコードするゲノムDNA配列の解析を行った結果、開始コドンから終止コドンまでの2787bpの塩基配列を決定した。これらの解析によって、本遺伝子は11のエクソンから構成されていることが明らかとなった。コイ目魚類のモデル生物であるゼブラフィッシュとの比較においてもアミノ酸配列では75%と73%の類似性を示した。また、ゼブラフィッシュの解析において、ゼブラフィッシュでは遺伝子Xの偽遺伝子、もしくはパラログが存在することが判明した。 得られたゲノム配列をもとにドジョウとゼブラフィッシュにおいて遺伝子Xへの変異導入に向けてガイドRNAを設計し、受精直後の1細胞期胚への顕微注入を行った。その結果、ドジョウでは顕微注入群において対照群よりも低生残率を示し、ターゲット領域を含むPCR産物のHMA解析では変異導入を示すフラグメントを検出できた。一方、ゼブラフィッシュでは生存率には変化が見られず、HMA解析からも変異個体を検出できなかった。 哺乳類で報告されている精子形成関連遺伝子(以下、遺伝子Y)の魚類への変異導入では、ゼブラフィッシュでは遺伝子Yへの変異導入に向けてガイドRNAを設計し顕微注入を行い、変異スクリーニングに向けた個体作出に至った。一方、ドジョウでは遺伝子Yの部分配列を単離に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
全ゲノム解析が行われていない非モデル生物であるドジョウにおいて、遺伝子Xの配列とそれらのゲノムDNAにおける配列の単離に成功した。すなわち、エクソンとイントロンの構造が明らかになることにより、精度の高いガイドRNAの設計が可能となった。これによって、複数個所のゲノム切断による大規模な欠損を導入可能となる。さらに、用いるガイドRNAの合成やCas9タンパク質の導入についても、平成28年度の方法で問題が無いことが確認され、顕微注入法や注入濃度についてのゲノム編集個体作製プロトコールが完成した。その後の変異個体のスクリーニング法においても、大量個体を迅速に解析するためのDNA抽出からPCR増幅、平成28年度に導入した機器を用いた電気泳動によるフラグメント解析までの手法が確立した。 ドジョウではクローンドジョウにおける低運動性精子の原因遺伝子をターゲットにしたゲノム編集個体のF0世代の作出に成功し、現在、成熟に向けて飼育中である。ゼブラフィッシュでは新たに複数のガイドRNAの設計を行い、再度、ターゲットの遺伝子への変異導入を試みている。ガイドRNAの変異導入効率は配列特異的であることが報告されていることから、複数種類を試すことで変異導入個体を誘起できる可能性が高い。 本研究では最終的に変異個体が産出する精子の運動性解析を行う必要がある。そこで、平成28年度は精子運動解析を客観的かつ詳細に行うためにComputer-assisted Sperm Analysisシステムを導入した。そして、ドジョウ精子の運動解析用のパラメーター設定と解析プロトコールの作成が完了し、F0個体や変異個体の精子運動解析を行う手法が確立した。また、精子運動性解析技術も十分に習熟するに至った。
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Strategy for Future Research Activity |
クローン雄における精子形成異常の原因遺伝子の特定と雄不妊化に有用な候補遺伝子の探索において、精子運動に関する候補遺伝子について更なる解析を行い、ゲノム編集の際に用いるガイドRNA設計に向けて遺伝子配列とゲノム配列における構造解析を進める。 候補遺伝子に対するガイドRNAを顕微注入し、変異誘発による変異導入個体の作出を継続して行うとともに、F0個体における体細胞と配偶子のスクリーニングによって、変異を有するF1系統の作出を行う。F1系統では変異箇所の特定を試みる。そして、F2におけるノックアウト個体作出に向けた個体選抜を行うとともに、系統の樹立に向けた変異導入個体の飼育を継続する。F0以降の変異導入個体の雄において、精子が得られた場合にはComputer-assisted Sperm Analysisシステムを用いた精子運動性解析に供する。遺伝子Xはゼブラフィッシュにおいても継続して変異導入個体の作出を試みる。 クローンドジョウにおける遺伝子ノックインでは、野生型A、B系統とクローンドジョウの原因遺伝子の翻訳開始点近傍の配列において、クローン個体に特徴的な変異の特定を進める。そして、クローン個体に変異が見つかった場合にはゲノム上のターゲットサイトでの相同組換えの誘起を試みる。 哺乳類における精子形成不全の原因遺伝子の魚類への応用ではドジョウ、ゼブラフィッシュにおいて、遺伝子YをターゲットとしたガイドRNAを設計し、変異導入個体の作出を継続する。 精子形成関連遺伝子に変異が導入されたF1個体が得られた場合、F2において交雑もしくは三倍体化を行い、ゲノム編集による生殖特性への影響の調査のための材料作製を試みる。
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