2017 Fiscal Year Annual Research Report
南限域に母川回帰するサケの温度適応機構の解明と温暖化への応答予測
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16H04968
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
北川 貴士 東京大学, 大気海洋研究所, 准教授 (50431804)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
野畑 重教 東京大学, 大気海洋研究所, 特任研究員 (00526890)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | サケ / 温暖化 / 温度適応 / アデノレセプター / 心筋 |
Outline of Annual Research Achievements |
閉鎖型循環水槽を用いた実験を行い、本種の臨界水温を北上川群と三陸沿岸河川群(甲子川)群で比較した (両群ともN≧4)。遊泳実験は、沿岸河川群は8から22°C (n=17)、北上川群は12から24°C (N=18) で行い、休止酸素消費速度 (RMR) と最大酸素消費速度 (MMR) を計測した。MMRからRMRを減じた有酸素代謝範囲 (AS) を算出し、得られた曲線を水温とASの関係に当てはめ、両群の至適水温範囲を推定した。その結果、沿岸河川群の臨界水温の平均値は24.9°Cであったのに対し、北上川群は27.8°Cと高い値を示した。RMRは両群ともに水温上昇に伴い指数関数的に上昇していたが、北上川群のRMRは同じ水温で計測された沿岸河川群よりも低い値を示した。ASによって推定される至適水温範囲は、北上川群は沿岸河川群いに比べ、3°C高い範囲をもつことがわかった。以上より、遡上時期が異なるサケ集団は異なる至適水温範囲をもつこと、特に北上川群は高水温での代謝速度を低下させること (温度補償) で高い水温帯での至適水温範囲を達成していることが示唆された。 また、北上川(N=10)と甲子川(N=9)から採集したサケ(採集直後)および両河川から採集し8、12、16℃で2日間馴致したサケ(N=7-8)の採血を行ない、血清中のカテコールアミン類(アドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミン)量を比較した。その結果、北上川のサケのカテコールアミン量は採集直後で最も高く、馴致の水温が低いと減少する傾向がみられたが、甲子川のサケは採集直後で高いものの、馴致群ではあまり増減がみられなかった。したがって、北上川と甲子川に遡上するサケは水温に対する感受性が異なる可能性が考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
近年サケの我が国への回帰量が低下するなか、とくに北上川に回帰したサケが比較的容易に確保できた。また、活魚輸送にも習熟してきたことなどから、生体を用いた実験が遂行できた。こういった理由から、研究はおおむね順調に進展しているといえる。確立させたノウハウを生かし、次年度以降は閉鎖型循環水槽を用いた代謝測定に加え、北上川・甲子川におけるサケの遊泳生態をバイオロギング手法を用いた野外調査、両河川で採集された卵のふ化実験などを行っていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
閉鎖型循環水槽を用いた代謝測定に加え、以下のことを加えさらなる展開をはかる。 ・本種受精卵のふ化実験:北上川・三陸沿岸群より得られた受精卵をそれぞれの環境と同じ水温でふ化まで飼育を行い、ふ化日数の違いなどを把握する。 ・遡上行動追跡実験:北上川・甲子川河口付近で速度・加速度・水温センサを搭載した小型記録計を装着したサケを放流し、回収された記録計に記録されたデータの解析を行うことで、遊泳距離や遊泳コストの違いを把握する。 ・心筋アデノレセプター分析:北上川および甲子川で採集されたサケより摘出した心筋に放射性リガンドを結合させ,液体シンチレーションカウンターにより放射活性を測定する。
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Research Products
(5 results)