2017 Fiscal Year Annual Research Report
褐藻類にみられる有用物質の代謝関連酵素の同定と高度変換技術の開発
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16H04977
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
井上 晶 北海道大学, 水産科学研究院, 准教授 (70396307)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
尾島 孝男 北海道大学, 水産科学研究院, 教授 (30160865)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 褐藻類 / 多糖類 / アルギン酸 / カロテノイド / 酵素 |
Outline of Annual Research Achievements |
褐藻類の多糖類代謝関連酵素について、昨年度に見出したマコンブのアルギン酸の分解と生合成に関わる各酵素について昆虫細胞分泌発現系の構築を進めた。アルギン酸分解酵素(SjAly)については、組換えタンパク質の分泌発現に成功し、1 Lの培養液から1.5 mgの収率で精製することができた。SjAlyはアルギン酸を脱離反応によって分解するアルギン酸リアーゼであり、アルギン酸のマンヌロン酸連続領域を分解し、その最小分解物は不飽和単糖であった。また、SjAlyに対する抗体を作成し、マコンブの各部位におけるSjAlyの発現を調べた結果、葉状部で良く発現していたが、仮根部では発現が認められなかった。 また、褐藻類がアルギン酸を構成するマンヌロン酸とグルロン酸の配列を制御する酵素のマンヌロン酸C5-エピメラーゼについて2つの候補遺伝子を前年度にクローニングした。本年度はそれらのタンパク質(SjC5-Aおよび同-B)に着目し、分泌発現系の構築を試みた。しかしながら、いずれのタンパク質も培地中への分泌は確認されず、発現したタンパク質は細胞内に留まっていることが確認された。これらのうち、発現量が高かったSjC5-Bについて細胞を回収、破砕し、組換えタンパク質の精製を行った。大部分が不溶性画分として得られたが、可溶性画分に含まれたタンパク質のエピメラーゼ活性を調べたところ、有意な活性を検出することはできなかった。 カロテノイド生合成関連酵素については、ワカメのリコペンβ-シクラーゼについてタンパク質レベルで同定することができた。すなわち、前年度に構築したリコペン生合成能をもつ大腸菌をプラットフォームとして、候補タンパク質(UpLbCyc)遺伝子を導入し、培養後のカロテノイド成分を調べた結果、リコペンがUpLbCycによりβ-カロテンへと変換されたことが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
自然界における主要なアルギン酸生産者である褐藻類自身が、アルギン酸分解活性を示す酵素をもつことを初めてタンパク質レベルで実証することができた。これまでにいくつかの褐藻類で大規模な遺伝子解析が進められてきたがアルギン酸分解酵素候補タンパク質の存在は予測されておらず、褐藻類がアルギン酸を分解する能力をもつのかについては不明なままであった。本研究は、この疑問を解決したものであり、褐藻類はアルギン酸を生合成するだけでなく、自ら分解する能力をもつことを示した初めての成果である。 アルギン酸修飾酵素であるマンヌロン酸C5-エピメラーゼについては、各候補遺伝子のクローニングは順調に進んだものの組換えタンパク質を可溶性画分に得ることができず、活性をもつ酵素を生産することができなかった。発現条件やシグナルペプチドと成熟タンパク質のジャンクション配列などの検討を進めたが、この問題を解決するには至らなかった。 また、褐藻類では初めてタンパク質レベルでカロテノイド生合成に関わる酵素のひとつであるリコペンβ-シクラーゼの同定に成功した。一方、細菌由来の同酵素に比べて大腸菌細胞内でのUpLbCycの活性は低く反応生成物であるβ-カロテンの検出が困難であったため、培養条件や組換えタンパク質発現法などの検討に時間を要した。そのため、β-カロテン以降のカロテノイド合成を触媒する酵素の研究については、当初の予定と比べてやや遅れている状況にあるが、褐藻類のUpLbCycで確立した最適条件を他の褐藻類の酵素についても適用することで、β-カロテンを基質する酵素の同定を進めることが可能と考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
アルギン酸代謝については、褐藻類では初めてアルギン酸分解を示す酵素を同定したが、その分解物として不飽和単糖が生じることが明らかになった。この不飽和単糖は不安定な化合物であることが知られており、他のアルギン酸資化生物では速やかにこれを基質として、直ちに還元酵素により2-ケト-3-デオキシグルコン酸へと変換される。褐藻類においても不飽和単糖を変換する酵素が存在すると予測されることから、この機能を担う酵素の同定を進める。また、SjAlyと高い相同性を示すタンパク質についてもトランスクリプトームデータベース上に確認されたため、アイソザイムと予測される酵素についても遺伝子クローニングと組換えタンパク質の生産を行い、機能を解析し、褐藻類におけるアルギン酸分解プロセスの解明を目指す。 マンヌロン酸C5-エピメラーゼについては、これまでに組換えタンパク質の発現を試行した2つのアイソザイムの可溶性発現が困難であった。そのため、既にcDNAを取得している他のアイソザイムについても昆虫細胞分泌発現系の構築を進めて、可溶性発現が可能なものについて、精製および性状解析を進める予定である。 カロテノイド合成関連酵素については、従来の大腸菌を利用した酵素活性測定法を褐藻類のものに適応した場合には、培養条件や発現ベクターの選択などの因子が重要であることがワカメのリコペンβ-シクラーゼの活性測定を進める過程で明らかになった。これらを踏まえた上で、β-カロテンを基質とすると予測された褐藻類の他の酵素について、遺伝子のクローニングおよび発現系を構築し、カロテノイドを抽出する。次いで、酵素反応によって生じたカロテノイドを解析し、酵素の同定を進める。
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Research Products
(2 results)