2016 Fiscal Year Annual Research Report
農業におけるゲノム編集技術をめぐるガバナンス形成と参加型手法に関する研究
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16H04992
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
立川 雅司 茨城大学, 農学部, 教授 (40356324)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大山 利男 立教大学, 経済学部, 准教授 (00221838)
三上 直之 北海道大学, 高等教育推進機構, 准教授 (00422014)
三石 誠司 宮城大学, 食産業学部, 教授 (10438096)
櫻井 清一 千葉大学, 大学院園芸学研究科, 教授 (60334174)
山口 富子 国際基督教大学, 教養学部, 教授 (80425595)
新田 直子 (加藤直子) 茨城大学, 農学部, 産学官連携研究員 (20377120)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ゲノム編集技術 / 参加型討議 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、1系(ゲノム編集の利用をめぐるガバナンス形成上の課題抽出)と2系(地域・産業特性を考慮した参加型手法の設計と実践)に分かれる。平成28年度の結果概要は、下記の通りである。 1系においては、ゲノム編集技術の利用をめぐる関係ステークホルダーを特定し、インタビュー等を通じて、ガバナンス形成上の課題を抽出することが課題である。この目的のため、種苗会社、貿易関連企業、青果物流通業、有機農業関連団体、消費者団体などの動きを把握することに努めると共に、一部の団体に対してヒアリングを行った。ただし、国内での動きは今のところ明確ではなく、各団体とも情報収集などを行っている段階にある。海外においては有機農業団体が明確な立場表明を行うなど、政策イシューになりつつあり、こうした動きが今後日本に波及する可能性がある。またゲノム編集に関するウェブアンケート調査(消費者および研究者)を実施し、ゲノム編集技術に対するガバナンスの在り方に相違がみられるかどうか、今後データ解析を進める。 2系においては、参加型手法に関する研究動向を踏まえつつ、地域・産業特性を考慮した参加型手法に向けた予備的な情報収集として、国内外におけるゲノム編集をめぐる参加型プロセスの先行事例調査と共に、北海道や茨城県の農業を想定した参加者への予備的情報提供を実施することが課題である。この目的のため、まずは北海道における予備的情報収集(道庁など)を行うと共に、他の研究プロジェクトとの連携も視野に置きつつ、道内での関連ステークホルダーとの討議機会の検討を行った。北海道ではこれまでのクリーン農業および食の安全条例での実績を踏まえ、道内農業においてゲノム編集技術をどのように位置づけるべきか、ステークホルダー間での合意形成の可能性について来年度以降、検討していく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1系(ゲノム編集の利用をめぐるガバナンス形成上の課題抽出)においては、ゲノム編集技術に対する国内外の動き、とくに規制政策や産業動向、業界団体の動向などについて情報収集を行い、知見を蓄積している。ただし、国内的な動きに関しては、政策や知財の動向が定まらない現状にあっては、積極的な研究開発投資を控え、動向を見極めるという傾向が強く、表面的な動きには結びついていないのが現状である。 2系(地域・産業特性を考慮した参加型手法の設計と実践)においては、北海道において関係ステークホルダーへの予備的なヒアリングを行うと共に、他の研究プロジェクトとも連携しつつ、北海道という地域特性を考慮した場合のゲノム編集技術のあり方に関して、今後実施する参加型討議および関係者からの意見収集に関する方針を検討した。なお、当初は茨城県での参加型討議も計画していたものの、研究代表者の異動により、対象地域に関しては、再検討する可能性がある。 またゲノム編集に関しては、非常に新規性の高い技術であるために、一般消費者の認識と専門家との認識の間にギャップが生じる可能性があり、この点が望ましいガバナンスのあり方に大きな影響を及ぼす可能性が存在する。こうした点を明確にするために、ウェブアンケート調査を実施した(本課題では専門家調査を実施)。本調査は終了し、現在データの分析に取り掛かっている。予備的な分析においても、望ましいガバナンスに関する意見が消費者と研究者との間では異なっている可能性が窺われ、こうした調査から得られた知見についても、今後のステークホルダーへの調査および参加型討議において情報提供することが望ましい。 以上のような研究上の知見を得ており、全体として「おおむね順調に進展している」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度においては、引き続き、国内外のゲノム編集をめぐる動向を把握する中で、関連ステークホルダーへのヒアリングを行うと共に、他の研究プロジェクトとも連携しつつ、参加型討議の模擬的実施を目指す。これまでゲノム編集技術に関しては、規制や知財において明確な動きがなかったことが関係ステークホルダーの態度留保や、積極的な活動の抑制につながってきた。しかし、今後、ゲノム編集由来の生物が政府に申請され、こうした事例に対して国内で規制方針が明確になっていく可能性もある。こうした政策環境の変化がおきれば、ステークホルダーの積極的な対応に結びつき、参加型討議などでも建設的な意見表明がなされていく可能性がある。なお、ゲノム編集をめぐっては、ジーンドライブやヒトゲノムへの適用などがメディアから大きな注目を集めており、こうした注目がネガティブな側面のクローズアップに結びつく場合には、他の分野への応用(特に食品応用)に関しても、何らかの影響が生じる可能性がある。したがって、農業・食品分野以外のゲノム編集をめぐる世論動向についても注意する必要がある。 昨年度実施したウェブアンケート調査に関しては、国内学会で報告すると共に、本科研費課題の1系および2系の研究実施過程で、関係者や討議場面において情報提供することで、積極的な議論を呼び起こす素材として活用する。とくにゲノム編集技術由来の製品に対する安全性確認、情報提供、表示などをめぐる望ましいガバナンスに関して、消費者と研究者との間で意見が異なる傾向がある点が示唆されている。さらには、ゲノム編集に関しては食料安定供給に対する期待が大きいといった点が予備的に観測されており、これらの点がどのような要因によって規定されているか、アンケート調査結果をさらに分析する予定である。
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Research Products
(12 results)