2016 Fiscal Year Annual Research Report
水分子ネットワークに着目した食品・農産物評価技術の開発
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16H05010
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
小川 雄一 京都大学, 農学研究科, 准教授 (20373285)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | テラヘルツ分光法 / 水素結合 / 水 / 細胞 / 農産物 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究開始年度となる今年は、テラヘルツ分光法を用いた水分子ネットワークの分析法を高度化することから試みた。具体的には、生体中で凍結防止効果が報告されている二糖類の水溶液を対象とし、耐凍結乾燥特性の面から水素結合ネットワークの破壊効果を評価した。このとき、広帯域な分光情報を利用するため、0.5GHzから12THzおよび、20~120THz(667-4000cm-1)の帯域(マイクロ波~中赤外域)をカバーする分光スペクトルを取得した。FIR FT-ATRおよびIR FT-ATRで得た反射率スペクトルは、クラマース・クローニッヒ変換を介して反射率から位相情報を得、この位相差とs偏光反射率から複素反射係数を導出した後、複素誘電率のスペクトルを取得した。さらにこの誘電率スペクトルをβ緩和、δ緩和、遅い緩和、速い緩和、分子間振動、ライブレーションの関数にフッティングし解析を行った。まず、0.5GHzから12THzの情報から水溶液中の二糖は水素結合を断片化させるとともに、四面体構造を歪ませる効果があることを実験的に示した。さらにIR領域の分光情報を用いてH-O-H間の曲げモードに着目しても水素結合ネットワークの破壊効果が見られ、そのメカニズムは加熱による温度上昇時とは異なる現象であることを見出し、それぞれを投稿論文として報告した。一方、農産物の発芽過程で生じるデンプンの分解反応をテラヘルツ分光でモニタリングする実験を行った。通常、豆苗の発芽時には内部に蓄えられたデンプンがエネルギー源として消費されることが知られている。テラヘルツ帯においてはデンプンの高次な構造に吸収ピークが観測され、そのスペクトルが生育日数に応じて変化することを見出した。このような変化は、植物内でのエネルギー消費や植物成長時のマクロな知見を与えてくれることが期待されることから、継続して研究を行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
分光学的手法により、水分子の水素結合ネットワークの分析を高度化するという今年度実施する当初の目的のうち、折り返しATRプリズムによる評価に若干の遅れがあるものの、解析手法の開発については概ね予定通りに進めることができた。このとき、当初FIR FT-ATRおよびIR FT-ATRの情報を繋いでの解析を予定していたが、低周波側のネットワークアナライザで得たスペクトルも解析に供する事ができた点は、予定より優れた点であった。また、メタマテリアルによるセンシングについては、学内のハブを使って試作を進め、TDSとFIR-FTによる比較を計画を前倒しして進めることが出来た。この点についても今後研究を効率的に遂行するために評価できる点であると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度からは、分光測定用の測定チャンバーの試作及び評価を進める。特に、温度、圧力を制御できる測定チャンバーと温度、湿度を制御できる測定チャンバーを試作する。前者はキセノンガスによる水分子の構造化をモニタリングするためのものであり、後者は農産物や食品の水和能とテラヘルツ分光スペクトルとの関係を探索するためのものである。これらを利用した評価実験で論文作成を進めるとともに、実サンプルによる評価結果についても学会発表や論文化を予定したい。 さらに、メタマテリアルによるセンシングは、電磁界シミュレーションと組み合わせて実施することで効率化が期待できる。早急に実験系を構築し、水分活性値のセンシングや農産物の鮮度評価に関する基礎実験を進めたいと考えている。
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