2018 Fiscal Year Annual Research Report
子牛神経疾患の生前診断と予後判定を目指した神経障害マーカーの網羅的検索
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16H05034
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Research Institution | Obihiro University of Agriculture and Veterinary Medicine |
Principal Investigator |
猪熊 壽 帯広畜産大学, 畜産学部, 教授 (70263803)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 牛 / バイオマーカー / 脳脊髄液 / プロテオーム解析 / 診断 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)高度医療機器の利用が困難な牛の神経疾患の診断において、脳脊髄液(CSF)中の中枢神経傷害マーカーに着目している。これまでS100B、Neuron-specific enolaseなど既知マーカーの診断的有用性を検討したが、30年度は牛CSF中の新規中枢神経傷害マーカーを網羅的に検索するため、炎症性脳疾患に罹患した牛のCSFを材料に二次元電気泳動を用いてCSFタンパク質を解析した。神経症状を主訴に帯畜大に搬入された牛のうち、病理学的検索により炎症性脳疾患と診断された7症例の生前に採取したCSFを用いた。7症例の内訳は伝染性血栓塞栓性髄膜脳炎2症例、髄膜炎2症例および脳幹部に限局した脳炎3症例であった。また、健常子牛4頭のCSFを対照とした。CSFは二次元電気泳動後に、銀染色を用いてスポットを検出し、疾患ごとにその分布を比較検討した。炎症性脳疾患牛7症例に共通して、pI 6-7、MW25-75 kDaの領域に健常子牛のCSFには認められないスポットが複数認められた。また、伝染性血栓塞栓性髄膜脳炎ではpI 5-9、MW25-75 kDaの領域、髄膜炎ではpI 3-8、MW25-75 kDaの領域、脳幹部に限局した脳炎ではpI 3-4およびpI 6-7、MW25-50 kDaの領域に、それぞれの疾患に特異的なスポットが複数存在した。これらは、中枢神経傷害によりCSF中に遊出したタンパク質であり、炎症性脳疾患の鑑別や傷害部位の特定に有用なマーカーになりうると思われた。 (2)牛の神経疾患症例報告:本研究の一貫として神経症状を呈する牛の症例を大学に搬入し病性鑑定を実施しているが、その過程において、肝性脳症、脊椎周囲膿瘍、脳膿瘍、等の比較的希な症例に遭遇したため、その概要を学会及び論文にて報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
(1)平成30年9月6日に発生した北海道胆振東部地震の影響で、北海道全体が停電となり、帯広市も約2日間停電となった。このため冷凍庫が機能せず、遺伝子発現解析用のサンプルの一部を破棄せざるを得ず、遺伝子発現解析については実施準備までとなった。 (2)新規マーカーを網羅的に検索するために脳脊髄液(CSF)のプロテオーム解析を実施した。炎症性脳疾患に罹患した牛のCSFを材料に二次元電気泳動を用いてCSFタンパク質を解析した。神経症状を主訴に帯畜大に搬入された牛のうち、病理学的検索により炎症性脳疾患と診断された7症例 - 伝染性血栓塞栓性髄膜脳炎2症例、髄膜炎2症例および脳幹部に限局した脳炎3症例から、生前に採取したCSFを用いた。健常子牛4頭のCSFを対照とした。CSFは二次元電気泳動後に、銀染色を用いてスポットを検出し、疾患ごとにその分布を比較検討した。炎症性脳疾患牛特異的スポット、伝染性血栓塞栓性髄膜脳炎特異的スポット、および髄膜炎特異的スポットが複数確認され、これらは中枢神経傷害によりCSF中に遊出する疾患特異的マーカーになりうると思われた。しかしながら、各スポットは小さく、質量分析を行うには不足する量であった。このため、本来であれば実施する予定であった質量分析による蛋白質の同定に至らなかった。 (3)神経症状症例は順調に収集が進んでおり、たいへん希な症例にも多く遭遇し、症例報告を行うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
1)31年度も継続して、臨床獣医師と共同して牛の各種神経疾患の自然発症例を収集し、血清および脳脊髄液サンプル採取を継続する。病理解剖により診断が確定された症例については、血清および脳脊髄液の生化学性状解析を行うとともに、症例報告としてその知見を積極的に公表する。 2)質量分析による新規蛋白マーカーの同定と定量:30年度に二次元電気泳動による解析で、脳炎特異的と推測される蛋白質を複数見出した。31年度はこれら蛋白質スポットの質量分析を行い、診断に有用な蛋白質性状を同定する。さらに同定された蛋白質について、血清またはCSF中の含量を定量できるよう、ELISAの確立を目指す。 3)疾患特異的遺伝子マーカーの検索:神経疾患症例からRNA解析用サンプルとしての脳組織、CSFおよび血液を採取し、mRNA抽出後ランダムプライマーと逆転写酵素を用いて cDNA を合成する。IL-1、 IL-2、 IL-4、 IL-6、 IL-12、 TNF、 IFN など主要なインターロイキン遺伝子、およびS100B、 NSE、 Tau、GFAP、 Nestin、 NeuN、 Fox3、 Neurofilament、 Periplerin 等の神経細胞に関連する蛋白質をコードする遺伝子に注目して各種疾患発症時のCSF および末梢血液中の発現状況を定量的 RT-PCR 法により遺伝子発現状況を明らかにする。 4)31年度は研究最終年度のため、積極的に学会及び論文発表を目指す。
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Research Products
(11 results)