2016 Fiscal Year Annual Research Report
原発事故による長期放射線被曝のウシに対する影響評価
Project/Area Number |
16H05035
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
佐藤 至 岩手大学, 農学部, 教授 (60225919)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岡田 啓司 岩手大学, 農学部, 教授 (60233326)
佐藤 洋 岩手大学, 農学部, 教授 (00726606)
佐々木 淳 岩手大学, 農学部, 助教 (60389682)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 放射能汚染 / 放射線被曝 / ウシ / 福島第一原発事故 / 健康影響 |
Outline of Annual Research Achievements |
主たる研究対象農場であるO牧場の平均空間線量は13.7μSv/hであり,推定外部被曝線量は120mSv/年であった。この牧場のウシの血中セシウム濃度は5月には概ね100Bq/kgであったが,8月には300Bq/kg近くまで上昇し,12月までほぼその濃度を維持していた。剖検した3頭の組織中セシウム濃度は2,000-4,000Bq/kgで,推定内部被曝線量はおよそ10mSv/年であった。 帰還困難区域の3農場で,春,夏,晩秋の3回の定期調査において延べ306頭のウシから採血し,一般生化学検査と血球数の検査を行った。赤血球数はいずれの農場においても700万/μL前後で,対照群(岩手,鳥取)のウシと差は認められなかった。白血球数は個体差が大きく,10,000/μLを超える個体も散見されたが,放射線障害の特徴であるリンパ球減少を示す個体は認められなかった。血液生化学検査においても特段の異常は認められなかった。 約30頭を対象として、甲状腺ホルモンであるT3とT4の血中濃度を測定した。その結果、帰還困難区域の牛は甲状腺ホルモンは対照牛に比べて高い傾向が観察された。その傾向はT4の濃度でより顕著であり、若年牛で老齢牛にくらべてより大きいことが明らかとなった。 血清8-OHdG(ELISA法)と末梢血Comet法にてDNA損傷を評価した。その結果,血清8-OHdG量は夏季および冬期のいずれの検査時期においても対照牛に対して有意な変動を示さず,Comet法においても有意な差は認められなかった。 8例の病理解剖を行って肉眼的および組織学的検索を行ったところ、4例を牛白血病ウイルスに起因した地方病性牛白血病と診断した。1例で腎臓周囲における巨大膿瘍がみられた。いずれの症例も、放射線被爆の影響と考えられる病理所見は認められなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現地農家ならびに(社)原発事故被災動物と環境研究会との緊密な協力関係の下,円滑に研究を推進することができた。定期調査は5月,8月,9月,および12月に実施したほか,数回現地での採材ならびに剖検を実施した。 外部被曝評価のための空間線量の測定ならびに内部被曝評価のための血中セシウムの測定は予定以上の数を実施した。血液検査による健康状態評価についても,主たる対象農場であるO牧場のほか,I牧場およびY牧場において延べ306頭について実施した。その分析は,アルブミン,グルコース,遊離脂肪酸,コレステロール,ベータヒドロキシ酪酸,カルシウム,AAS,GGT,その他の多くの項目について実施した。8OH-dGの測定は夏季(6, 7月: 54サンプル)及び冬期(12月: 30サンプル)に採取した血清について実施した。更に,30例の動物の全血からdGを抽出して,血清8OH-dG量の補正検討を実施した。甲状腺に関しては,予定していた超音波検査はウシの皮膚が厚く鮮明な画像が得られなかったため実施できなかったが,甲状腺ホルモンの分析は約30頭について実施した。 臨床検査結果を基にした病牛の摘発とともに、牛の所有者の要望も考慮して剖検牛の選抜を行い、病理学的検索に供する牛は確保できた。検索も当初の予定通りに進んでおり、病理学的に充分な情報が得られている。 以上のとおり平成28年度に計画した検討は概ね予定どおりに進捗した。
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Strategy for Future Research Activity |
空間線量の測定による外部被曝評価,血中セシウム濃度の測定による内部被曝評価,血液生化学的検査ならびに血球数の検査による健康状態評価,Comet法によるDNA損傷評価についてはこれまでどおり実施する。甲状腺に関しては,T3,T4のほかTSHについても分析を行い,帰還困難区域のウシでみられた甲状腺ホルモン濃度の差が被曝によるものか否かを明らかにしていきたい。また,原発事後後早期に採取された血液サンプルを入手し,比較的高い線量に曝露された時期の8OH-dGを測定し,放射線曝露影響を評価する予定である。病理学的検索については,昨年度は目標をほぼ達成できていることから、今年度も同様の検査・検索内容を予定している。 これらに加え,今年度は帰還困難区域の被曝牛と対象牛についてDNAの発現状況を比較するとともに,APサイト,SOD様活性,GSH/GSSG,ジチロシン等の酸化ストレスマーカーの測定を新規に行い,低線量の放射線被曝が牛の健康に影響を有しているのか否かを解明する。
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