2017 Fiscal Year Annual Research Report
原発事故による長期放射線被曝のウシに対する影響評価
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16H05035
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
佐藤 至 岩手大学, 農学部, 教授 (60225919)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岡田 啓司 岩手大学, 農学部, 教授 (60233326)
佐藤 洋 岩手大学, 農学部, 教授 (00726606)
佐々木 淳 岩手大学, 農学部, 助教 (60389682)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 放射線 / 牛 / 福島第一原子力発電所 |
Outline of Annual Research Achievements |
現地調査において約70ヶ所の空間線量を測定するとともに,健常牛13頭および異常牛3頭の病理解剖,ならびに延べ150頭から採血を行い,各種検査を実施した。 空間線量から評価した累積外部被曝線量は約800mSv,血中放射性セシウム濃度から評価した累積内部被曝線量は約100mSvとなった。2018年の年間被曝線量は約60mSvであり,現在でも人の被曝限度を超えていた。 血液生化学検査ならびに血球数検査をすべての個体について行った。一部正常範囲を逸脱しているものも見られたが,対照群と比較して特に異常とは考えられず,健康状態は概ね良好であった。放射線障害の指標となる白血球数の低下も認められなかった。 末梢血白血球の遺伝子発現を調べたところ、対照群と発現量に相違が認められる遺伝子が抽出された。この発現量の相違が低線量放射線被曝に基づくものであるのか否かを明らかにするため、対照群の例数(地域)を増し検討を行った。その結果、標的とした遺伝子の発現は、低線量放射線被曝による影響ではなく、飼育環境に基づき変動している可能性が考えられた。 酸化的・放射線ストレスの指標である血清中ジチロシンをELISA法にて測定し,DNA損傷を末梢血を用いたコメット法で評価したが,いずれも対照群と有意な差は認められなかった。甲状腺機能の評価として血中の甲状腺刺激ホルモンおよび甲状腺ホルモンの濃度を測定した。また、甲状腺組織の被曝線量を推測するため、甲状腺組織中の放射性ヨウ素と通常ヨウ素の濃度測定を行い,結果を解析中である。 病理解剖を行なった13頭の健常牛には特記すべき異常は認められなかった。一方,異常牛として病理解剖された3頭についてはいずれも白血病であることが判明した。また,帰還困難区域の牛の甲状腺と比較するため,非汚染地域の牛の甲状腺を100頭分あまり入手し,基礎データを確立した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの2年間で計6回総合調査を行い,延べ450頭あまりから採血したほか,空間線量の測定などを行なった。さらに,健常牛,異常牛合わせて25頭の病理解剖を実施し,所要の検査を行った。 血液生化学,血球数および血中放射性セシウムの測定は全頭について実施し,各個体について継続したデータが蓄積された。白血病との関係で血清LDH分画やチミジンキナーゼに関しても測定を試みたが、一定の傾向は認められなかった。しかし白血病発症個体8頭についてみると、継続的リンパ球減少症の個体が4頭認められた。 放射線影響の指標となる血清8OH-dGおよびジチロシン濃度を測定したほか,DNA損傷をコメット法で評価した。さらに,Wistar系ラット16匹を用いて最大5GyのX線を照射し,血清8OH-dGおよびジチロシン濃度の変化を28日間経時的に観察した。 被曝と遺伝子発現の関係では,高線量群,低線量群の他,予定通り3箇所の農場から対照群を採取することができた。定量的リアルタイムRT-PCR法による標的遺伝子の発現量測定についても当初の予定通り進んでおり、データが得られている。 甲状腺刺激ホルモン、甲状腺ホルモンの血中濃度は、正常ウシのそれと比較してやや高い傾向があった。甲状腺組織中の放射性ヨウ素の濃度は正常ウシに比べて有意に高い一方で、通常ヨウ素量は低いことが分かった。 健常牛,異常牛合わせて25頭の病理解剖を実施し,研究に必要な症例数は確保できている。昨年度は非被ばく牛の甲状腺サンプルを得ることもできており、当初の予定通りに検索が進んでいる。これまで解剖を行った症例のうち3例で甲状腺の腫大が認められたが,被膜浸潤や有糸分裂像などの悪性所見は認められなかった。8頭の白血病症例について,遺伝子解析を実施した。
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Strategy for Future Research Activity |
空間線量の測定等による被曝線量評価,異常牛が発生した際の検査あるいは病理解剖,調査対象牛すべての血液生化学検査,血球数検査ならびに放射性セシウム濃度の測定を継続する。 放射線影響の指標として用いた血清8OH-dGおよびジチロシン濃度の測定は昨年度で終了したが,コメット法によるDNA損傷評価は継続し,さらにDNA2本鎖切断の指標となるγ-H2AXの測定を試み,有意なDNA損傷が起こっていないことをより確かに証明する。 遺伝子発現に対する影響に関しては,標的遺伝子の発現量測定をさらに行うと共に、数値データの詳細な解析を実施し、低線量放射線被曝による影響を評価する。 甲状腺機能評価に関しては,血漿中の放射性ヨウ素量の測定、甲状腺機能に影響を受ける牛の体格評価,ならびに他の血中ホルモン濃度測定を行い、総合的に長期低線量被曝が甲状腺に与える影響の評価を行う。 病理学的検索については,今年度も継続して同様の調査・研究を予定している。すなわち,異常牛あるいは農家が安楽殺を希望した牛については病理学的検索を行って異常の有無を明らかにし,さらに甲状腺については昨年度確立した対象データとの比較検討を行う。病理解剖に際しては特に白血病に留意し,白血病であることが確定した場合は,その腫瘍組織について引き続き遺伝子解析を行い,非被曝牛のウィルス性白血病との違いの有無を解明する。
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Research Products
(4 results)
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[Journal Article] Pathological findings of Japanese Black Cattle living in the restricted area of the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant accident, 2013-20162017
Author(s)
Sasaki J., Hiratani K., Sato I., Satoh H., Deguchi Y., Chida H., Natsuhori M., Murata T., Ochiai K., Otani K., Okada K. and Ito N.
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Journal Title
Animal Science Journal
Volume: 88
Pages: 2084-2089
DOI
Peer Reviewed
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