2016 Fiscal Year Annual Research Report
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16H05036
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
磯貝 恵美子 東北大学, 農学研究科, 教授 (80113570)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
福田 智一 岩手大学, 理工学部, 教授 (40321640)
奥村 一彦 北海道医療大学, 歯学部, 准教授 (60194510)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 抗菌ペプチド / 自然免疫 / 抗菌活性 / 抗癌活性 / miRNA / 多剤耐性菌 |
Outline of Annual Research Achievements |
抗菌ペプチドの機能の統合的解明を目指し、耐性菌問題を抱える感染症制御と新規抗癌剤創製のための分子基盤の2点について検討を行った。 抗菌活性についてこれまで複数の膜破壊メカニズムの仮説が提唱されている。種々の抗菌ペプチド(アミノ酸置換体、ショートペプチドを含む)を用いて細菌に対する抗菌活性を調べるとともに、抵抗性・感受性決定因子の解析を行った。黄色ブドウ球菌のうち高度感受性株と低度感受性株の膜性状の違いをガスクロマトグラフィーにおける脂質分析で決定し、その組成の違いが感受性と関連することを明らかにしてきた。本年度においては腸球菌でも同様の結果が得ることができた。さらに異なる要請電荷をもつ分子置換体を作成し、種々の菌株で膜電荷に影響を与える抗菌ペプチド耐性遺伝子やValinomycin処理による膜電位の消失などについても検討を行った。しかし、これらについては有意な差は得られたかった。 癌細胞は主に大腸癌細胞をターゲットして検討を行った。抗菌ペプチド処理後、複数の大腸癌細胞で同様のアポトーシスが見られた。抗菌ペプチドの処理によって miRNAを介した制御系が動くと考え、miRNAマイクロアレイに解析を行った。アレイ解析によってもっともよく濃度依存性の動きを示したmi-663aについて検討したところ、miR-663aによってケモカインレセプターのひとつであるCXCR4が抑制され、最終的に細胞周期調節に重要なp21によって制御を受けていることが分かった。通常の大腸癌細胞を移植し抗菌ペプチドを投与した群およびmiR-663aを強制発現させた大腸癌細胞を移植したマウスでは、コントロール群に比べて腫瘍の形成が抑えられる事も明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
抗菌ペプチドの合成は予定通りに行っている。分子シミュレーションモデルから合成したショートペプチドは薬剤耐性菌に対して期待したほどの活性を示さなかった。細菌の種類による感受性の違いを様々の観点から検討を行った。すなわち、電荷に与える影響を知るため抗菌ペプチド耐性遺伝子(mprF:細胞膜リン脂質リジン化酵素をコードする遺伝子など)の関与、膜の電荷、膜の脂質組成について、メチシリンおよびバンコマイシン耐性遺伝子を保有する腸球菌モデルおよびブドウ球菌モデルで検討した。抗菌ペプチド感受性決定には脂質組成が関連することを明らかにしてきた。 癌細胞については特に大腸癌をターゲットにしたとき、いずれの細胞でも抗菌ペプチドによってアポトーシスが誘導された。大腸癌細胞に対する作用機序の解明を、アポトーシス誘導、細胞周期の抑制、細胞内シグナリングプロセスの制御などに焦点を当て、解析した。miRNAマイクロアレイに解析およびシグナル系の解析を通じて、癌細胞制御系の一端を明らかにすることができた。変化の認められたmiRNAを同定でき、そお機能を知るためにエレクトロポーションによる遺伝子導入を行い、mi-663a強発現大腸癌細胞の作製を試みた。しかし、非効率であるため、レンチウイルスベクターによる遺伝子導入方法に切り替え、mi-663a強発現大腸癌細胞の作成に成功した。この細胞はマウスのXenograftモデルにおいて通常の癌細胞に比べて増殖が著しく抑制されていた。平成29-30年度に予定していた抗菌ペプチドによる癌抑制効果の分子メカニズムを示すことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
細菌に対する作用はとくに薬剤耐性菌を標的として、殺菌活性や増殖抑制作用だけでなく、バイオフィルム形成阻害およびバイオフィルムへの浸透性を検討する。さらに、新規活性として運動性制御試験を行う。自然免疫系機能分子として,我々は補体系レクチン経路のマンノース結合レクチン(MBL)が細菌の運動性制御に関わることを見出しているため、運動性阻害効果について抗菌ペプチドとMBLとの比較検討や相乗効果の有無などを検討する。 抗菌ペプチドが癌細胞にどのように働くのかを調べるためFAM標識抗菌ペプチドを用いて細胞での局在を調べる。癌細胞に対する作用が細菌に対する作用とは異なり、単なる膜孔形成から生じるもの出ないことを明らかにする。また、イギリスとの共同研究の中で酸化ストレス(ROS)応答にも注目すべきではないかという考えに達した。そこで、ジヒドロエチジウムによる染色によってROSの発生を調べることとする。 エクソソームは細胞間コミュニケーションに利用されることが知られている。そこで、内包されるmiRNAが抗菌ペプチド誘導によって自己制御に向かうかどうかを検討する。未処理および抗菌ペプチド処理癌細胞との比較の中でエクソソーム内のmiRNAの質的・量的違いに着目して検討する。
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