2017 Fiscal Year Annual Research Report
酸化還元境界層のゆらぎが微生物の動態とガス代謝に及ぼす影響
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16H05056
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
村瀬 潤 名古屋大学, 生命農学研究科, 准教授 (30285241)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
浅川 晋 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (50335014)
渡邉 健史 名古屋大学, 生命農学研究科, 講師 (60547016)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 水田 / 酸化還元境界層 / 微生物群集構造 / 微生物間相互作用 / 酸素 |
Outline of Annual Research Achievements |
つくばみらい市FACE実験圃場から採取した分げつ期の水稲(コシヒカリ)根試料および作土試料について、13C標識メタンによる安定同位体プロービング法により、メタン由来の炭素を取り込んだ微生物群集の解析を行った。細菌群集については、TypeI, IIのメタン酸化細菌が最も優占していたが、その他にも細菌捕食性のMyxococcalesや代謝産物を同化したと推察される非メタン酸化細菌(Burkholderiales, Gemmatales)の関与が明らかとなった。根圏試料の細菌群集叢は非根圏に比べて相対的に単純であることが示唆された。また、原生生物、線虫などの真核生物がメタンの炭素を同化していることが明らかとなり、水稲根圏においてもメタンを基点とする微生物食物連鎖が機能していることが示された。水稲根試料でメタン酸化食物連鎖に関わる真核微生物群集の構成は非根圏土壌とは大きく異なっており、水稲根特有の微生物食物連鎖の存在が示された。水稲根のメタン酸化微生物食物連鎖の構造は、大気CO2の上昇の影響を受けて変化した。 土壌のメタン酸化活性に及ぼす酸素分圧の影響を室内培養実験で検証した。メタン酸化活性は、大気酸素濃度の1-100%の範囲でほとんど違いが認められなかったが、酸素の消失によって、劇的に低下した。このことからメタン酸化細菌は土壌環境中で起こる大きな酸素濃度の変化に適応し、微量の酸素を使ってメタンを酸化する能力があると考えられた。 湛水状態とした水田土壌の室内培養実験で微好気性鉄酸化細菌群集構造を解析したところ、鉄酸化細菌は土壌最表層(0-2mm)で増殖しており、その中には表層土壌に特徴的なグループが含まれていた。このことから、水田土壌表層における鉄酸化細菌の活動が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
安定同位体プロービング法による水稲根圏の微生物食物連鎖の解析は、一部興味深い結果が得られたものの、水稲の生育時期や品種の影響などさらに詳細な解析は今後の課題である。また、酸化還元状態のゆらぎに対する土壌微生物の応答については部分的に着手しているが現在までに現場土壌の十分な解析には至っていない。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度までに溶存酸素濃度の大きな昼夜変動が認められた湛水水田土壌に生息する微生物群集の遺伝子発現の実態を明らかにする。昼夜にわたってほぼ酸化的な上層(0-5mm)、夜間は無酸素状態となるが昼間は大気飽和以上の酸素が存在する中層(5-10mm)、昼夜を問わずほぼ無酸素状態が維持される下層(10-15mm)に分けて土壌を分取しており、この土壌からRNAを抽出、16SrRNAを発現する微生物群集の昼夜の変動を解析する。また、mRNAの網羅的解析による遺伝子発現の昼夜変動の解析を試みる。また、無酸素状態にある土壌の酸化還元電位の昼夜変動の有無や程度を、マイクロセンサーを用いて解析する。 根圏環境におけるメタン酸化微生物食物連鎖の特徴について、根の酸化活性が高い品種、根の酸化活性が低下する水稲生育後期の試料についても解析を進め、ガス代謝、植物生育に重要な役割を果たす根圏環境の酸化還元環境と微生物食物連鎖との関係を総合的に考察する。 上記に加え、土壌および分離菌株を用いた培養実験を行ない、野外実験によって得られた知見を検証する。本課題の最終年度にあたる本年度は、2年目までの成果と総合し、酸化還元環境のゆらぎに対する湛水土壌微生物の応答についての知見を取りまとめる。
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